同齢林の構造発達機構の解明―粗放的育林プロセスの確立に向けて―

[ 2004年5月現在 ]

森林にかかわる問題意識

 わが国では,戦後の拡大造林により里山や奥地山岳地帯の天然生林がスギ,ヒノキ,マツ等の
針葉樹人工単純同齢林に林種転換されてきた。今でこそいろいろと批判される林地生産力増強計
画であるが,その当時(戦後〜高度経済成長期)は,国内の木材需要を満たすべく「木材供給能
力の増大」を図ることが,いわば,公益だったわけである。ところがこの「全国あげての人工林
化」は質量ともに問題があった。まず,天然生林を人工林に転換しすぎた(量の問題)。これは
現在,地域個体群の激減や絶滅といった「地域の生物多様性の低下」や大型動物による「生物害」
の問題として顕在化している。また,植栽針葉樹の生育に向かない立地にまで人工林を造成して
しまった(質の問題)。林道から離れた所でよく見かける不成績造林地(通常の育林プロセスと
比較して本数密度が半分程度であり,かつ他の植生が多数侵入している造林地)はそのなれの果
てである。
 増えすぎた人工林をどうするか。まず思いつくのはゾーニングによる対処である。人工林とし
て維持できる(地位,地利級ともに良い)所は人工林としての土地利用を考え,それ以外は天然
林に誘導すべく林分を取り扱う。これで上記の問題はどうにか解決できそうだ。いやいや,これ
は適正な森林配置を実現するためのスタートラインに過ぎない。次に「多様な目標林分へ誘導す
る」ための育林プロセスを確立しなければならない。育林プロセスの確立,口で言うのは容易い
が,現時点で確立されているのは皆伐一斉更新,伐期50〜60年による針葉樹人工単純同齢林の
育林プロセス,くらいのものである。複層林施業,長伐期施業,天然生林の育林プロセスについ
ては,いまだ「試行錯誤,開発中」と言っても過言ではない。

何故同齢林の粗放的育林プロセスに注目するのか?

 多様な育林プロセスを確立する上で考慮しなければならないことがある。労働力の問題である。
今日,林業労働力の高齢化・少数化が進み,従来型の労働力多投による集約的な育林プロセスの
適用が困難になりつつある。機械化はその有効な対処策の1つであるが,それにも限界はある。
となれば,「いかに手を抜いて目標林分に誘導するか?」こう考えることも必要ではなかろうか。
 育林プロセスの検討は,伐採方式(撹乱の強度),更新方式,伐採面積(撹乱の規模)を組み
合わせことから始まる。中でも伐採方式は重要である。大面積に裸地ができるか(皆伐),小面
積に裸地ができるか(択伐)によって林分の再生機構は異なるからである。「択伐は林内にギャ
ップを生み出す。ギャップはその他林床に比べて明るく,比較的耐陰性のある稚樹の更新・成長
が促進される場所である。このため,ギャップが間断的に林内各所に生じれば,その林分は異齢
林として発達していく」。ギャップ更新理論を単純に適用するとこのように言える。また,択伐
は林分破壊の程度が弱く,生態系への影響度が低い作業として支持されやすい。確かに,択伐を
基本とした育林により,稚樹の更新とともに林冠木の肥大成長が促進できれば素晴らしい。ギャ
ップ更新についてはいまだ不明な点が多く,鋭意研究が進められているところであるが,「ギャ
ップの大きさ」,「ギャップをつくる時期」,「ギャップをつくる場所」の適当な組み合わせが
見い出せれば,目標林分への誘導も可能になるであろう。ただ,択伐を基本とした育林プロセス
は,更新稚樹の確保のために,どうしても作業が(頭脳)集約的にならざるを得ない。
 では皆伐による林分再生についてはどうか。「皆伐はまとまった裸地を生み出す。裸地は林内
に比べ明るく,耐陰性の低い樹種から高い樹種まで,成長の早い樹種から遅い樹種まで更新・成
長が可能な場所である。このため,まとまった裸地が生じれば一斉更新が起こり,そこは同齢林
として発達していく」。大規模撹乱後の森林発達理論を単純に適用するとこのように言える。皆
伐は林分破壊の程度が強く,生態系への影響度が高い作業として批判されやすい。ただ,拡大造
林華やかりし頃のような5〜数十haという皆伐を避け,地形に応じた伐採面の設定,保護樹帯(
緩衝林分)の設定,皆伐地の分散,伐採の周期などに配慮すれば,植生の回復の早いわが国では
,景観(あるいは流域)レベルの生態系の機能はそれほど低下しないはずである。また,まとま
った面積を単位とするため,作業効率が高いという利点もある。さらに,明るい場所がまとまっ
ているだけに,ギャップ更新よりも稚樹の更新が容易(基本的に地拵えをして様子を見るだけ)
である。更新,保育(下刈り,除伐),密度管理,収穫という育林プロセスから見ても,皆伐に
よる同齢林造成はより粗放的に行い得るだろう。もちろん,皆伐による森林造成は選択肢の一つ
であり,これで事足りるわけではない(欠点も大いにある)のは言うまでもない。

九州中部山岳地帯におけるアカマツ二次林の構造発達様式

 「不成績造林地の多い奥地山岳地帯では,やはり地域の天然林を対象に施業を行った方がコス
ト面,森林の機能面でもよいのではなかろうか?」こう考えたのは大学院博士課程に進学した頃
である。当時私がいた九州の奥地山岳地帯といえば,九州山地中央部の標高1000m付近。この
辺りは暖温帯林と冷温帯に挟まれた中間温帯林,もしくはモミ・ツガ帯と呼ばれる。モミ・ツガ
帯というだけあって,モミ・ツガ天然林の生態,施業に関する研究はすでに行われていた。「そ
れでは広葉樹林施業でも」と思ったのだが,中間温帯林だけに樹種構成が多様であり,「広葉樹
林施業」などと一括りにはできそうもない。で目を付けたのがアカマツ林であった。アカマツ林
研究に関しては歴史が長く,戦前戦後に行われた,植杉による冷温帯アカマツ林,井上による暖
温帯アカマツ林の施業研究は極めて有名である。しかし,文献を探しても,中間温帯アカマツ林
に関してはほとんど見つからない。しかも当該地域のアカマツは日向マツとして全国的に知られ
た優良マツでもある。これはほっておく手はない!と,私はアカマツ林のサイズ構造(胸高直径
や樹高の頻度分布)発達様式の研究を始めた。その成果は学位論文(岩大演習林報告 30に掲載)
としてまとめられているので詳細はそちらに譲るが,この研究で一番驚いたのは(単なる勉強不
足だったのだが)「アカマツ林は同齢林分である」ということである。当該地域のアカマツ林は,
典型的な陽生樹のアカマツ,耐陰性の高いツガ,モミ,やや陽生のミズナラ,ホオノキといった
高木性樹種と,耐陰性・萌芽能力の高い低木性広葉樹から構成される。研究を始めたばかりの頃
は,クレメンツの遷移理論ばりに「大面積の裸地にまずアカマツが更新し,その15〜20年後に
ツガ,モミやミズナラなどが更新する」と考えていた。しかし,地際の年輪調査をやってみると,
高木性樹種の試料木の場合,樹齢範囲が10年に収まってしまう。その他2林分でも試したがやは
り同じであった。「同齢林でもこれだけ階層構造の発達した林分になるのか!」。さらに,自然
状態(各樹種の成長特性と個体間競争に委ねる)で立派な高蓄積林分に発達するのだから,密度
管理や保育も極めて粗放でよいのだ。このアカマツ林研究を通して,私の頭には意識的・無意識
的に「同齢林」のキーワードが定着していく。

スギ単純同齢林の林地生産力と立地環境との関係

 アカマツ林研究では「時間の経過とともにアカマツ林はどのように発達していくのか」が明ら
かにするのが仕事であった。時系列データは当然ないので,発達段階の異なる複数の林分のデー
タをその代用とした。このアプローチで悩まされたのが「データの中に発達段階の違いだけでな
く,立地環境の違いも入っている」ことであった。こうした思いもあって,岩手大に赴任した私
は「林分構造に及ぼす立地環境の影響」を確認すべく,同一流域内に所在するスギ単純同齢林の
林地生産力と立地環境との関係について学生さん達とともに研究を始めた。その結果,地形図上
で判読可能な地形情報により,林地生産力のばらつきの70%以上を説明できることが明らかと
なった。(川村・國崎,岩大演報31)。つまり,地形の違いが林地生産力に強く影響を及ぼすこ
とが改めて確認されたわけである。

二次林の林分構造に及ぼす地形の影響

 「地形の違いは林分構造にも影響を及ぼすのではないか?」九州のアカマツ林研究で未検討で
あったこのテーマを,岩手のアカマツ二次林を対象に尾根と谷に注目して調べた(鍋島さんとの
共同研究)。その結果,「尾根はアカマツやコナラといった主要樹種の常在度が高く,本数密度
や胸高断面積合計も高い。一方,谷はアカマツやコナラの常在度が低く,本数密度や胸高断面積
合計も低いが,地位は高い。そのため,谷ではアカマツ,高木性広葉樹とも大きな個体の割合が
高い」ことが明らかとなった.また,谷の中でも比較的急斜面のところにはコナラが生立し,緩
斜面のところではアカマツが優占した.この傾斜の違いによる植生パターンには地表攪乱が関係
している可能性が指摘された(國崎・鍋島・柴田,東北森林科学会誌5-1)。
 また,地形の凹凸はそれほど富んでいない斜面中腹部のミズナラ二次林でも,樹種別の相対優
占度は緩やかな尾根,谷と対応関係が見られ,この微地形に伴う植生パターンは他の森林タイプ
の場合とほぼ一致することが,1ha調査区の解析から明らかとなった.ただし,この林分ではブ
ナが尾根に多く,谷で少ないという,他の森林タイプの場合とは異なる事例が確認された.様々
な林分構造解析から,ブナは伐採により形成された大ギャップ(尾根部)に依存して更新してい
ると考えられた.樹種の繁殖サイクルと攪乱とがかみ合うことで,微地形に伴う植生パターンは,
一般的なパターンからずれていく可能性が考えられる(佐々木君との共同研究.國崎ら,岩大演
報32)。
 こうした地形による林分構造の局所的変異には,資源の環境傾度,攪乱体制,更新材料の供給
様式,各樹種の生育特性が複合的に影響している。二次林の構造発達機構,更新維持機構を解明
するためには,さらに多くの林分を調べていく必要がある。

スギ単純同齢林のサイズ構造動態

 地形―林地生産力―林分構造の関係はもちろん重要だが,時間に伴う林分構造の発達パターン
が分からなければ,密度管理の問題は解決しない。
 近年,複層林とともに注目されている人工林施業に長伐期施業がある。しかし,高齢林の成長
パターンすらよく分かっていないのが実際である。都合の良いことに,滝沢演習林には約20年前
から調査されている貴重な150年生スギ林分がある。そこで,この林分の直径分布および林分材
積成長量を間伐の観点から解析した。
 その結果,林分成長量は間伐に関係なく断続的に10m3・ha-1・year-1を示すこと,(材積
間伐率16%程度の)下層間伐により大径木本数密度が,若干ではあるものの,高くなること(高
齢林でも間伐は有効であること)を明らかにした(國崎・藁谷・柴田,日本林学会誌,1999)。
 時間に伴う直径分布の変化,間伐が直径分布の動態に及ぼす影響については多くの研究が行われ
ている。しかし,研究結果の十分な整理が行われておらず,せっかく得られた知見を密度管理へ応
用しにくい状態になっている。そこで,こうした直径分布に関する研究の成果を個体間競争の観点
から整理し,直径分布の動態に関する仮説を提唱したい(國崎,森林計画誌35に総説掲載)。

スギ・落葉広葉樹混交林の構造発達機構

 スギ林の林地生産力と立地環境との関係について研究を行うべく,多数のスギ林を踏査したのだ
が,その際,落葉広葉樹が混交している林分がいくつか見られた。これらは除伐段階で伐り残され
た,あるいは除伐されなかった林分である。しかるに,スギが被圧されることもなく,順調に生育
している。これは面白い対象である。近年,CO2固定および生物多様性の観点から,成長量の高い
針葉樹単層林内に広葉樹を更新させることで樹種組成や階層構造の多様化を図るとともに,太陽光
を効率的に利用し高蓄積の林分へ誘導する育林法の確立が求められている。針葉樹単層林から針広
混交複層林へ誘導するには大別して2つの方法がある。林冠の閉鎖後,間伐によりギャップを設け
他樹種を更新させる多齢林方式と,除伐段階で他樹種を残存させる同齢林方式である。前者は小中
規模撹乱後の森林発達に関するギャップ更新理論を応用した育林法として,近年研究が進められて
いる。一方,後者はオリバーの大規模撹乱後の森林発達理論を応用した育林法に相当するが,この
観点からの研究は未だみられない。大規模撹乱後の森林発達理論は,大規模撹乱後に放置する,も
しくは若干の人為を加えることで同齢混交林が成立すると説明する。つまり,この理論は,後者の
労働粗放的な育林法としての可能性を示唆することから,後者は早急に検討すべき育林法といえる
。そして,その育林法の確立には,まず針広同齢混交林の構造発達機構を解明する必要がある。 
 (続く)関連文献は國崎・川村,岩大演報31;國崎,岩大演報33;Kunisaki and Mitsuishi,
          岩大演報34;國崎・三石,東北森林科学会誌8;Kunisaki and Kunisaki,
          岩大演報35                             


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