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浄法寺町の地域活性化のための農学研究 |
目次
[ 目次 / 1.農山村の観光 / 2.農業・農村体験施設 1)エコミュージアム 2)野外博物館 3)群馬県新治村「たくみの里」 4)岩手県遠野市「遠野ふるさと村」 / 3.小規模農村宿泊施設 1)欧州の農家民宿 2)日本の農家民宿 3)新潟県高柳町「かやぶきの里」 / 4.「浄法寺町で見つけよう−自分、ふるさと発見の町−」 1)浄法寺町の観光の現状 2)浄法寺町もう1つの観光開発構想 ]
[ 藤崎の研究 / 地域環境システム学研究室 / 農業生産環境工学科 / 農学部 / 岩手大学 ]
| 1.農山村の観光 |
みなさんは「観光」という言葉から何を思い浮かべるのだろう。あるいは1週間程度の休暇を利用して出掛けるとしたらどういうところを訪れるのだろう。温泉地でのんびり保養する、それとも海水浴場やスキー場を訪れてスポーツで汗を流す、テーマパークや遊園地で楽しむ、風光明媚な地を訪れる、神社や仏閣を拝観して回る、といった具合だろうか。
ところが近年では、温泉もスポーツ施設も存在しない農山村、昔ながらに営々と農林業が行なわれ人々が日常生活を送っているだけの農山村、これ自体が観光の素材となるのである。いわゆる「グリーンツーリズム」である。高度成長期を経て人口が農村から都市に流出した。一方で人々の好みは単なる物見遊山から体験学習へと変化しており、公害発生を契機に自然環境への欲求も高まっている。こうしたことを背景に、多くの都市に住んでいる人々にとって、昔ながらの農山村そのものが、健全な自然環境を満喫できる非日常的な空間として意識されるのである。
とはいえ、もちろん農林業にいそしんでいるだけで都市住民が観光に来るわけではないし、訪れる観光客を利用して地元経済の活性化にも結びつけていかなければならない。観光客に農業や農村を見学・体験し学べる場を用意したり、ゆっくりと滞在できるように宿泊施設を整えたり、地場産品を料理の食材や土産物として供給したり、自然や景観の保全・整備とこれと調和する快適な生活環境の整備といったことが必要である。
ここでは、農業や農村を体験できる施設と小規模農村宿泊施設について、事例を交えて紹介し、最後に浄法寺町を素材にした観光開発構想案を示すことにする。
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[ 藤崎の研究 / 地域環境システム学研究室 / 農業生産環境工学科 / 農学部 / 岩手大学 ]
| 2.農業・農村体験施設 |
単に体験ができる観光施設ではなく、体験を通じて学べる観光施設が博物館である。なかでも地域をそのまままるごと生きた展示物にしてしまうのがエコミュージアムで、地域の遺産を研究し、保存し、育成し、展示して活用することを通じて、人々の地域への理解を深め、地域を発展させることを目的とする博物館である。
1960年代にフランスのジュルジュ・アンリ・リヴィエール氏が、地方の過疎化や生活水準の低下に対する取り組みとして提唱し、その後フランスでは、各地方の自然公園などを母体にいくつものエコミュージアムが開設されている。日本では「生活環境博物館」や「地域生態博物館」あるいは「地域まるごと博物館」として紹介されて、1995年に日本エコミュージアム研究会が発足し、岡山県津山市や山形県朝日町などいくつかの市町村でエコミュージアムを開設したり、開設に向けた取り組みが行なわれている。(なお、ここで示す理念とは無関係に、自然学習の拠点施設をエコミュージアムと呼ぶ場合があるので注意を要する。)
エコミュージアムの最大の特徴は、行政と住民そしてこれを支える専門家が協力して博物館を企画し、設立し、運営することにある。住民自らが博物館に直接かかわることにより、自分たちの地域の特性を深く理解し、地域の特性を活かした生活や産業を自ら模索し始めることが可能になる。また、「地域の遺産」として、地域の産業、生活、農具、民具、建築物から天然記念物や動植物、さらには伝説や習慣まで、有形のもの無形のもの、地域内に存在する様々なものを非常に幅広くとらえている点や、地域の遺産は、可能な限り、それが存在する「現場」においてそのまま保存、活用する点も、この博物館の特徴である。
具体的には、地域内の現場に散在する遺産は「衛星(サテライト)施設」となり、これらを結ぶ歴史や自然観察のための散策路が「発見の小径(ディスカバリートレイル)」となる。そして、事務局、調査研究、収集保存、情報サービス、教育普及の拠点として「中核(コア)施設」が設けられる。規模は1市町村内におさまるものから県全体といった非常に広範囲に及ぶものまで様々である。衛星施設では、民間企業の施設や個人の住宅がそのまま活用される場合もあり、住民が学芸員として説明や実演を担当する場合もある。中核施設には、かつての貴族の城館や大農家の屋敷が活用されたりする。
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2)野外博物館
エコミュージアムでは各施設が地域内に散在し開放されたものであるのに対し、野外博物館は広大な閉じた敷地内に、伝統的な農村を農地や生活を含めて再現したものである。伝統的な農村建造物を移築して収集し、そこで伝統的な生活用具や農機具を収集展示したり、家畜を飼育し、園内の農地では伝統的な農作業を行ない、パン焼き、乳製品や肉製品作りなどの農産物加工、織物、木工、鍛冶など様々な農家生活を実演している。ドイツなどに多く見られ、後述する遠野ふるさと村がより大掛かりになり、かつ博物館機能を持っているような施設である。
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3)群馬県新治村「たくみの里」−地区内分散型体験観光施設−
日本では農業や農山村についての博物館というと、郷土資料館といった名前の施設に伝統的な農具や生活用具が並べて展示されていたり、民家が中はがらんどうのまま建物だけが保存されているというのが通例である。一方の体験施設はというと、外観は多少田舎風にしてあるものの鉄筋コンクリートの近代的な建物である場合が多い。
こうした中、各種の手づくりが体験できる群馬県新治村「たくみの里」はあたかもエコミュージアムの中核施設と衛星施設のように、総合案内所と各体験施設とが一般の民家と混ざって地区内に散在している。農地や林のわきに野仏と呼ばれる石像が点在している須川平地区に、野仏散策の拠点を整備し、そこで地元の名人による手仕事の伝承保存を行なうもので、住民と来訪者の交流を進め、地域の史跡文化や食文化を活用し、高齢者の生きがいを図ることを目的としている。木工、竹細工、陶芸、こんにゃく兼総合案内の4つの家を4つの集落に分散して整備し、1987年に開設された。その後毎年新しい家が増え続け、1997年には総合案内施設と15の家となり、当初年間9万人だった入場者が40万人にまで増加している。
運営は村の公社とそれぞれの家の職人が中心で、地元住民と来訪者との直接的な関りはあまりないものの、周辺農家の多くは農産物を直売している。一方、新しく整備された家は、旧三国街道付近に集中して立地し、また東京など他地域の職人が開設する場合も多く、開設当初の地区内を周遊して地元の身近な匠と交流するという意図とはやや離れてきている面もある。また、当初開設したうちの3つの家では地元の名人の死亡や入院という局面を乗り越えたが、特定の個人に頼らない運営も課題になってきている。
利用者の多くは、群馬、埼玉県からで、平日は高校、中学の体験学習、休日は家族連れ、グループが主となる。1度ですべてを回りきれないことや年々施設を拡充していること、あるいは同じことを繰り返し体験して技術向上を図る場合もあり、リピーターも多い。
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4)岩手県遠野市「遠野ふるさと村」−農村再現型体験観光施設−
岩手県遠野市の「遠野ふるさと村」は、小規模な野外博物館とも呼べる施設である。8.8haの敷地内に農地を取り囲むように6棟の農家住宅が移築保存され、四季折々の伝統行事や農作業を体験できる。この地方独特の農家住宅である曲り家の保存を目的に当初構想され、計画を具体化する過程で体験学習実践の場、都市農村交流の場という要素が加味された。遠野の民俗学や民話を保存伝承し、これを直接体験できる場として1996年4月にオープン、初年度は10万人の入場者があった。
ここの運営は市の公社が行なっているが、約150名の地元住民が「まぶりっと(守る人の意味)」として協力しているのが特徴的で、かまどの火をおこして建物の番をしたり、郷土食のおやつの提供、わら細工や竹細工、田畑の管理、伝統行事など各種の実演や体験学習指導を行なっている。入り口のビジターセンターにはちょっとした図書室もあり、施設が閉じた空間であることを除くとエコミュージアム的な色彩が濃い。
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| 3.小規模農村宿泊施設 |
のんびりと農業や農村を体験するには宿が必要だ。さらに、宿が(伝統的な)農家住宅であれば、宿泊自体が農村体験となる。
欧州では農家民宿が広く普及し、やはり観光地周辺に多く立地している。庶民がバカンスを有効に過ごすための安価な宿を提供するとともに、農業者や年金生活者などに副収入をもたらすため、農村の小規模宿泊施設への優遇政策が行なわれていることが背景にある。
宿には、貸室と貸家の2つのタイプがある。貸室というのは、寝室と食堂での朝食を提供するBed and Breakfastと呼ばれるもので、個人が1泊単位で泊れる。希望すれば夕食を提供する宿も中にはある。貸家の方は台所、食堂、寝室等が一式そろった、ちょうど2世帯住宅の1世帯分や独立棟を提供するもので、食事は自炊で食器や調理道具は備付、家族やグループが基本的には1週間単位で宿泊する。建物は、建築後数百年経っているものでもシャワー、トイレなどの設備は現代的にきちんと整備され、近年に建築されたものでもその地方風となっている(民宿に限らず建築物の様式についての規制が一般に厳しいため)。
経営者の手間は、貸家の場合には週に1度、宿泊者の交替時に内部を清掃点検をする程度と手間要らずで、貸室で提供する朝食でもパンかシリアルと飲み物に自家製のジャムが出てくる程度(イギリスではベーコンエッグ程度の1皿が増える)に過ぎない。他には宿泊者と応対して周辺観光地等の情報提供したり、牛乳や卵など自家製の食材を販売したりする。夕食を提供したり、各種の体験メニューを用意したりしている宿もあるが、労力に余裕があったり、宿泊業からの収入が重要な場合である。
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2)日本の農家民宿
日本の場合、欧州のような農家民宿は普及していない。宿泊は1泊2食が基本で経営には労力を必要とすることや、部屋の仕切りが襖で開放的なのでプライバシーの点で他人を泊めにくいこと、小規模な宿泊施設への優遇政策がないことなどが原因として推測される。
とはいえ、以前から観光地周辺に立地している普通の民宿の中には、農家が経営しているものが比較的多く存在している。これらでは、建物は別棟を新築する場合が多く、農業の片手間に民宿業を行なっているものではない。農業は単に継続しているだけで民宿業が主であったり、家族数が多くて最低でも2名程度民宿業の専従者が存在して家庭内で分業していたり、スキー場近接地のように夏は農業、冬は民宿と季節的に分業していたりする。また、中には自家製食材や茅葺きや囲炉裏を宣伝に用いている民宿もある。最近では国のグリーンツーリズム振興の一環で、農林漁業体験民宿というのがあり、これらの多くは一般の民宿が体験という特徴を出そうとして登録しているものである。
一方で農家民泊という形で、正規に開業しているわけではないがお金を取って人を泊めている場合がある。年間利用者はせいぜい100人程度、宿泊者には空き部屋を提供し風呂やトイレは家族用を共用している。都市農村交流などが発端で、補助的収入よりは交流目的のものである。
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3)新潟県高柳町「かやぶきの里」−伝統的農家住宅風宿泊施設−
かやぶきの多く残る集落等で、来訪者の宿として、行政が伝統的農家住宅風の宿泊施設を建築し、運営は公社や集落等で行なっているものがある。建物の外観は伝統的な農家住宅であるが、風呂、水洗トイレをきちんと整備し、部屋は壁で仕切りプライバシーが保てるようになっている。仕事は近隣の人が交替で担当し、なるべく地場の食材を利用した田舎料理を1泊2食提供するものである。農村体験を求める観光客に快適な宿泊と食事を提供しつつ、周辺住民には農業の片手間の副収入を確保するという点で、欧州型の農家民宿よりも日本に適しているように思われる。新潟県高柳町「荻ノ島かやぶきの里」はその1つである。
「荻ノ島かやぶきの里」はかやぶき民家の多く残る荻ノ島集落にカメラマン、画家など多くの来訪者あることから、町が建築し1992年に開設したものである。集落の有志によるふるさと村組合が運営し、交替で作業分担している。食事は、当初自炊を原則としていたが、地元の食材を主にした田舎料理が提供され、もちつき、わら細工、山菜採りなどの体験学習も可能である。利用者は家族、グループ、子供会など年2000人で、約半数が首都圏で、3割がリピーターである。
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[ 藤崎の研究 / 地域環境システム学研究室 / 農業生産環境工学科 / 農学部 / 岩手大学 ]
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4.「浄法寺町で見つけよう−自分、ふるさと発見の町−」 |
さて、ここでは、浄法寺町を素材に農業や農村を素材にした観光開発構想を検討していくが、その前に、浄法寺町が観光という観点からどのような現状にあるかを説明しておく。
浄法寺町の観光客の特徴は「法話目当ての通過客」ということができる。近年の年間入込み数は約10万人であるが、99%が日帰り客で宿泊客がほとんど存在していない。また、1987年に瀬戸内寂聴さんが天台寺住職に就任するが、それ以前の観光客は、年間2万人程度に過ぎなかった。現在の大半の観光客は、浄法寺町に魅力を感じて訪れているのではなく、寂聴さんの法話が目当てで、法話を聴き終えるや否や、他市町村の温泉地や観光地に移動してしまうのである。
また、浄法寺町の観光資源は「秀でたものはないが素材はある」という状況である。寂聴さんの法話が現在の最大の観光資源であるが、他にも素材としては、「浄法寺」という町名自体ちょっと珍しく耳や目にしたとき好印象が残り、稲庭岳、安比川と自然は豊富である。縄文遺跡も数多く存在し、天台寺や中世の館跡などの史跡もある。浄法寺塗の知名度は高くないが、漆生産は日本一で、首都圏から移住する漆芸家もある。かやぶき民家が点在し、水田ばかりでなく牧歌的な放牧場や一面のたばこ畑も存在する。神楽やえんぶりといった伝承芸能も存在するし、猫塚伝説、福松話など昔話も豊富である。
そして、浄法寺町の立地条件は比較的良好である。まず交通面では、八戸自動車道のインターチェンジがあり、人口30万人の都市圏である盛岡や八戸から40〜50分の位置にあり、100万人都市圏である仙台からも車で3時間圏内である。ただ、公共交通機関はやや不便で、東北新幹線の終着駅である盛岡からは、所要時間1時間半のバスが1日2往復しかなく、盛岡から特急で1時間のJR在来線二戸からは朝夕中心に10往復のバスがある。さらに、浄法寺町の周辺、車で30分から1時間程度の範囲内には、年間観光客200万人の八幡平、150万人程度の安比高原、十和田湖、東八幡平といった大観光地が立地している。これら既存の観光地をうまく活用することで、浄法寺町への集客を容易にできる可能性がある。ただし、既存観光地のメイン周遊ルートは、盛岡で新幹線から降りた後、八幡平から十和田湖へと抜けるルートであり、残念ながら浄法寺町はこのルート上には位置していない。
現在、浄法寺町が取り組んでいる観光開発は、大きく2つある。1つは天台寺周辺開発で、現在の最大の集客資源である寂聴さんの法話をこれで終わらせないよう、天台寺の環境を整えると同時に、生産量日本一の漆を素材に漆器生産の見学・体験や販売を核にした地場産品販売や町紹介の拠点作りである。もう1つは稲庭岳周辺開発で、温泉やアウトドアレジャー施設を整備するものである。
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2)浄法寺町もう1つの観光開発構想
浄法寺町の観光開発の最大の課題は、法話目当ての通過客から脱却し、浄法寺町自体の魅力での集客を拡大し、観光客による町内での滞在、消費を図ることである。これには、現在町が手がけている2つの観光開発はともに有効な手段であろう。しかし、漆生産自体は日本一でも漆器としての知名度は高くはなく、また、温泉、アウトドアレジャーも浄法寺町に限らず、全国至る所の市町村で展開されている。これだけでは、ややインパクトに欠ける。
そこで、町民との「語らい」を軸にした、町民「手作り」の、昔ながらの農山村そのものを学習や体験するエコミュージアム的観光を、広く町内で展開することを、浄法寺町の「もう1つの観光開発構想」として提案する。いわば農業農村学習体験施設をたくみの里的に配し遠野ふるさと村的に運営、宿泊施設はかやぶきの里的、というものである。昔ながらの農山村という点で、浄法寺町は豊富な素材を有しており、これを活かした農山村学習・体験の場として適しているからである。
近年いわゆるグリーンツーリズム的な活動は、全国の様々な地域で取り組まれ始めているので、これだけでは他地域との差別化が困難であるが、多くは単独の施設として整備される場合が多く、エコミュージアム的に広く町内で展開するというのは珍しい。これに「語らい」と「手作り」という要素を加味し、浄法寺の独自性を出そうというのである。また、こうした活動では人と人との交流の色彩が濃いので、独自性がやや希薄でも、繰り返し来訪する固定客を作るという側面もある。

町民との「語らい」とは、1つは現在の寂聴さんの法話を発展的に展開しようという発想であり、もう1つは「福松話」に代表される浄法寺町の昔話を現代的に展開しようという発想で、この両者を結合させたものである。こうした語らいの場を、小規模な宿泊施設を町が整備し地元住民が運営する宿、として展開していくのである。
浄法寺町で寂聴さんの法話が始まって既に10年を越えている。町民の中には、寂聴さんの語り部となりうる人材が育ちつつあるのではないかと期待される。寂聴さんの法話は春から秋までの間の半年間、各月に1日だけであるが、町民が語り部となれば、一年中いつでも寂聴さんの法話に準じたものに触れることができる。また「語り部」と表現したが、語るだけでなく来訪者の話を聴く事も重要である。法話では一方通行であるが、語り聴く事で双方向のやりとりとなり、来訪者との交流が一層深まることが大いに期待される。
また、浄法寺の昔話の特徴は、浄法寺町では以前から出稼ぎが多いこともあり、他地域の話が多く入り込んでいることである。なかでも福松話は、明治2年生まれの小森福松さんが自分の沖縄から満州、樺太まで出稼ぎした経験を元に、これを法螺話として面白おかしく語ったものが語り伝えられているものである。こうした福松話のような昔話を来訪者に語ると同時に、来訪者から新たな他地域の話を聞き出し、これを新たな現代版福松話として追加していくのである。こうして、遠野の民話とは趣がかなり異なる、浄法寺町独自の「今昔諸国漫遊談」というのが定着していくことが期待される。
「手作り」の農山村学習・体験とは、1つは既存の民家や施設をできるだけ有効利用しよう、ということと、もう1つは町民の自発的な取り組みを大切にしよう、ということである。
学習・体験のための新たな施設を立派に整備していくのではなく、現在、町民が生活の中で使用しているものを、なるべくそのままの形で、学習・体験施設として活用していくことは、来訪者に、本物に触れる、という満足感を与えると同時に、現在の低成長時代にふさわしく、なるべく投資を少なくする、という利点もある。また、町民の自発的活動を主体とすることで、来訪者との接触の密度が増し固定客の確保につながると同時に、自らの様々な試行錯誤の中で、他者に頼らない自らの創意工夫が生まれ、浄法寺町の独自性が増していくことが期待されるからである。
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