土壌は地球表面を1〜2mの厚さでおおうとても薄い層です。


 土壌には養分の保持能力、保水性、緩衝能力などがあります。また土壌中には多くの生物(ミミズ、細菌類など)が住んでいます。人間はこれらの土壌の特性を利用して穀物や野菜などの作物を生育し、農業を営んできました。しかし、砂漠や険しい山岳地帯、北極・南極などの作物生育に適さない土地があるため、農林業に利用できるのは地球の全陸地面積の約50%しかないのです。


 人口増加が爆発的に進む今日、食糧増産が世界的問題となっていますが、農耕地の増加はもはやほとんど望めないのが現状です。そればかりか無計画な耕作による耕地の荒廃化(土壌流出、塩類化、砂漠化)、農用地の汚染(人工有機化学物質、重金属、放射能)、農用地の転用(工場化、宅地化)などにより肥沃な土壌を持った耕地は減少さえしているのです。
 世界には塩類土壌、砂漠土壌、泥炭質土壌など耕作に適さない痩せた土地がたくさんあります。その中の一つに酸性土壌があります。私たちは酸性土壌の中でもとくに強酸性を呈する酸性硫酸塩土壌の研究を行っています。



 土壌はその起源物質である母材(堆積岩、火成岩、有機物など)が風化してできたものです。従って、土壌は母材の性質を強く受けています。それでは酸性硫酸塩土壌の母材はなんなのでしょうか。酸性硫酸塩土壌の母材はその多くが海底の堆積物が固まってできた堆積岩です。
 日本列島はもともと海の底にありましたがプレートテクトニクスによる海底の隆起や火山活動などにより陸化しました。海水中には多量の硫酸塩が含まれていますが、還元環境下では硫酸塩は硫酸還元菌の活動により水に溶けない硫化物となって海底の堆積物中に取り込まれます。


 日本各地にはこのように硫化物をたくさん含んだ海成層が広く分布しています。海成層は一般的に火山灰や陸成の堆積岩などに覆われているため、地表に露出していることはほとんどありません。しかし、農地・宅地・工業用地の造成が行われ海成層が露出すると、空気中の酸素、雨水と反応して硫酸を生じ強酸性硫酸塩土壌となって農作物の生育を阻害したり、人工構造物に多大な被害を与えます。



 私たちの研究室はこの強酸性硫酸塩土壌の生成過程を硫黄同位体を利用して研究を行っています。






 自然界に存在する元素には同一の元素でありながら中性子数が異なるために質量数の異なるもの、つまり同位体が存在します。さらに、同位体には放射能を持ち放射性壊変により他の核種に変化する放射性同位体と、放射性壊変しない安定同位体が存在します。自然界に存在する硫黄には質量数の異なる32、33、34および36の4つの安定同位体が存在します。硫黄の安定同位体の存在比率は、物質によってわずかですがそれぞれ異なります。この硫黄の同位体の存在比を測定することによって様々な物質の硫黄同位体的特徴を調べることが出来るのです。