---はじめに---

 林内には大型のものから目に見えないようなものまで様々な動植物が生息しています。その中には人間にとって害を及ぼす恐れのあるものが少なからず存在します。被害にあわないため、被害にあってしまったときのために多くの知識を身につけて入林しましょう。

---ハチ---

 日本における動物の被害の中で、一番死亡者数が多いのがハチ刺されによるものです。ハチの毒液の中には神経毒やアナフィラキシーショックを引きおこすタンパク質やペプチドなど多くの毒物質が含まれています。アナフィラキシーショックを引き起こすため2回目以降に刺された場合の危険率は高いですが、1回目でも多くの箇所を刺された場合や頭部を刺された場合は大変危険です。

--刺されないようにするには--

○近づかない
 ハチは巣に近づく、巣に刺激を与えるなどすると襲ってきます。ハチの巣を見つけたら近づかないようにしましょう。
 大型のスズメバチの場合は巣の10m程度まで近づくとハチが人の体の周囲を飛びまわります。さらに近づくと巣から多くのハチが飛び出し巣と体周辺を飛び回り、顎を打ち鳴らし大きな羽音をさせて警戒音を発します。これ以上近づいた場合攻撃を受けます。
 林内を歩いていてハチが体の周囲を飛びまわったら一度動くのをやめ近くにハチの巣がないか、ハチの羽音がしないか確認しましょう。
 樹液の出る木や花など餌場の周りでもハチは攻撃してきます。餌場となるような場所でハチを見かけたらそこに近づかないようにしましょう。

○黒い服を着ない
 ハチは黒いものに攻撃をする習性があります。黒いものを着ているとハチを興奮させることになりますので、林内に入る際は黒い服は避けましょう。また黒い頭部も狙われやすいので帽子をかぶることをお勧めします。

○香料をつけない
 香水、シャンプー、整髪料、制汗剤などに含まれている香料はハチの攻撃フェロモンと同じ物質が含まれている場合があります。香料をつけていると、無条件にハチを興奮させ襲われるということになりかねません。

○音を良く聞く
 ハチの羽音は結構大きく、巣が近くにあった場合は音で気がつくことが出来ます。ヘッドホンやイヤホンなどをつけず周囲の音に気を払ってください。

--刺されてしまったら--

 刺されてしまった時は、まず安全な場所まで逃げてください。ハチの毒液には攻撃フェロモンも含まれているため、近くにハチがいた場合続けて刺される可能性があります。逃げる際に振り払うなど大きな身振りをすると余計にハチを興奮させてしまいますのでそのような行為は避けるようにしてください。巣を破壊してしまった場合、かなりの距離を追いかけてきます。
 安全な場所まできたら応急処置を行います。まず傷口から毒を搾り出します。このとき口で吸い出すと毒を飲み込んだり、口内に傷があった場合はそこから毒が入ったりしますので手で搾り出してください。吸引機を持っている場合はそちらも有効です。毒を搾り出したら傷口をきれいな水やお茶で洗います。その後、傷口の心臓側を軽く縛り病院へ行ってください。
 
 過去に刺されたことがある、新たに刺されてアナフィラキシーショックが心配という人は病院でアレルギー検査を受けてください。

キイロスズメバチの巣
 見つけても近づいたり刺激したりしないでください
オオスズメバチ
 日本で一番大型のハチです。親指ほどの大きさで比較的簡単に見つけられます。
見つけても刺激を与えないでください。


---クマ---

 本州に生息しているのはツキノワグマです。山菜取りなどで山に入った際にクマに出会ってしまい襲われるというニュースが、毎年何件かはあります。演習林内にもクマは生息しており、林内では多くのクマの痕跡を確認できます。クマにあわないための対策をして入林してください。
 御明神演習林はもとより、滝沢演習林でもたまに見かけることがありますので油断しないでください。

--出会わないために、出会ってしまったら--

 ツキノワグマは聴覚が鋭く、性格も攻撃的ではありません。こちらの存在を確認すると逃げていきます。鈴やラジオなど音の出るものを携帯し人間がいることを知らせましょう。
 出会い頭で襲われないために、人間側もクマに気がつくことが重要です。藪の中などでは周囲を確認しづらいですが、ガサガサなど動物が動く音がしたら声を上げる、拍手をする、などして音を出し、人間がいることをクマに知らせましょう。

 万が一出会ってしまったらクマのほうを向きながらゆっくり遠ざかりましょう。クマは背を向けると追いかけてくる習性があります。背を向けて走って逃げてしまうと追いかけられてしまいます。また、死んだふりは効果がありませんので絶対にしないようにしましょう。アウトドア用品店などでクマ撃退用のスプレーが売られていますので用意しておくのも手です。

子クマの近くには母クマがいる可能性があります。
かわいくても危険ですので近づかないでください。
御明神演習林で捕獲されたクマ


---ヘビ---

 本州に生息しているヘビで毒をもつものはマムシとヤマカガシです。双方ともおとなしくよほど接近したりいたずらをしない限り咬むことはありません。しかし咬まれた場合、毒性自体はハブ以上でありヤマカガシの場合は血清がないため命にかかわります。

--出会わないために、出会ってしまったら--

 ヘビは春や秋など気温が低い場合は日向に、夏など気温が高い場合は日陰に隠れています。倒れている枯れ木や切り株などをまたいだりする際は注意してください。また地面ではなく樹木の上、枝などに巻きついている場合があります。その場合咬まれる場所が上半身となることが多く大変危険です。若齢の造林地やヤブなどに入る場合は注意が必要です。
 もし出会ってしまっても、踏みつけたりしていない限りヘビのほうからいきなり攻撃を仕掛けてくることはありません。人間の存在を確認すれば逃げていきます。試験区画にヘビがいる場合は、遠くから枝で地面をたたくなどして威嚇してください。直接触れてしまうと攻撃的になりますので遠くの地面をたたいてください。

--噛まれてしまったら--

 毒性自体は強くてもマムシの場合は量が少なく、ヤマカガシの場合は毒牙が口内の奥にあり、よほど深く食いつかれなければ毒を注入できないため、めったに死に至るほどの被害にはなりません。咬み付かれても落ち着いて行動しましょう。
 咬まれてしまったら、吸引機などがあったら毒を吸出します。口で吸い出してはいけません。次に患部の心臓側を軽く縛り、なるべく安静にしながら林を出て病院へ向かいます。激しく動くと毒の回りが速くなりますので、なるべく体を動かさないようにしましょう。
 咬まれたときにどんな特徴のヘビであったか記憶しておくと病院での処置がスムーズにいきます。また咬んだヘビが毒を持たない種類のものでも雑菌による感染症の恐れがありますので、病院へ行き診断を受けましょう。


---害のある植物や虫など---

 林内には、死には至らないものの吸血する動物、アレルギー性のかぶれやかゆみを引き起こす動植物、棘や鋭い葉など物理的にけがをする植物などが生息しています。
 これらへの一番の対策は肌を露出させないということです。長袖、長ズボン、手袋、帽子等で露出部分を少なくして入林しましょう。
 入林した後そのままの格好で家に帰り、ベットなどでくつろぐと衣服についたダニやアレルギーの原因物質などが拡散し、2次的な被害を引き起こす場合もあります。家に帰ったら服を着替え洗濯することをお勧めします。

--吸血するもの--
 
 カ、アブ、ブヨ、ヒル、ダニなどです。
 カ、アブ、ブヨは多少の痛みやかゆみを伴いますが大きな被害にはなりません。
 ヒルは御明神演習林の奥のほうに生息しています。血を吸っているのを見つけたら取り除いてもかまいません。取り除いた後は血を絞り出し、きれいな水で洗ってください。ヒルは血液を固まりにくくする成分を持っているため取り除いた後も血が流れ続けますが心配する量ではありません。
 ダニは取り除くと頭や牙の部分が残ってしまうことがあるため、ピンセットなどで慎重にすべて取り除いてください。自分で取り除けない場合には病院で取り除いてもらいましょう。またダニは感染症などを持っている場合がありますので、刺された後具合が悪い、腫れがひどいなどの症状がある場合は病院へ行ってください。

--かぶれをひきおこすもの--
 
 植物ではウルシ、ツタウルシ、ヌルデなどが、動物ではいわゆる毛虫がかぶれの原因となります。かぶれはアレルギー性が多く、その場合人により症状が違います。弱い人はウルシの木下に立つ、毛虫が服の上を這う、その服に触れるというだけでかぶれてしまうようです。
 これらにはヤブに入った時などに知らないうちに触れていることが多く、また症状が発生するまで数時間〜2日くらいかかるため、いつどこで何によりかぶれてしまったかを特定するのが困難です。症状も人により肌が黒ずむ、赤くはれ上がる、水泡ができる、あせものようなものが出来るなど様々です。
 入林した後、なんだかわからないけどかゆい、肌が熱いなどの症状が出たら病院へ行きましょう。
 明らかにウルシに触ってしまったなど原因がわかる場合は、大量の流水で洗い流しましょう。かぶれの原因は科学物質ですから取り除くことにより症状が抑えられます。原因物質がついた手で他の部分を触ったり、少量の水で拭うなどの場合被害が拡大する場合があります。

--棘や鋭い葉の植物--
 
 棘のある植物はハリギリ、タラノキ、クマイチゴ、サルトリイバラなどです。鋭い葉がある植物はイネ科の植物でササが代表的です。イネ科の植物は葉にガラス成分を蓄積していくため切れるようになります。
 これらは刺さっても切れても目以外の場所であれば痛いだけですみますが油断はしないようにしてください。


--森林から帰り体に異常が出たら--
 
 
アレルギー
症のように人により症状の異なるものから、ツツガムシ病のように潜伏期間が長く初期症状が風邪に似るものまで多くの症状があり、素人では原因の特定が困難です。森林から帰り体に異常をきたしたら病院へ行き医師の診断を受けてください。