寒冷バイオシステム研究センター | ||||||||||||||
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>第3回>講演要旨 | [ プログラム | 写真集 ] |
上村 松生
岩手大学農学部附属寒冷バイオシステム研究センター生体機能開発研究分野
References
1) PL Steponkus. Annu Rev Plant Physiol 35:543-584, 1984;
2) M Uemura, RA Joseph, PL Steponkus. Plant Physiol 109:15-30, 1995
3) M Uemura, PL Steponkus. J Plant Res 112:245-254, 1999
4) Y Kawamura, M Uemura. Abstract of the 5th International Plant Cold Hardiness Seminar, 2001
5) 鎌田 崇. 修士論文, 岩手大学, 2001
6) T Kamata, M Uemura (in preparation).
関 原明
理化学研究所筑波研究所植物分子生物学研究室
References:
1) Seki, M., Carninci, P., Nishiyama, Y., Hayashizaki, Y. and Shinozaki, K. (1998) Plant J. 15: 707-720.
2) Seki, M., Narusaka, M., Yamaguchi-Shinozaki, K., Carninci, P., Kawai, J., Hayashizaki, Y. and Shinozaki, K. (2001) Plant Physiology and Biochemistry
39: 211-220.
3) Seki, M., Narusaka, M., Abe, H., Kasuga, M., Yamaguchi-Shinozaki, Carninci, P., Hayashizaki, Y. and Shinozaki, K. (2001) Plant Cell 13: 61-72.
あらゆる生態系の中で、北方林生態系のカーボン貯留量は最大と推定されている。こうした北方林の中でロシアシベリアのカラマツ林は最大の面積を占めている。北欧や
北米など他の周極域北方林の優占種はトウヒなどの常緑針葉樹であり、永久凍土上に成立しない。これらと比較し、シベリアの永久凍土上の広大な落葉性のカラマツ林は特
異的な森林生態系と言える。さらに、アジアユーラシア地域ではシベリアから赤道まで連続した森林ベルト地帯が続き、固有種も多く、地球環境を考える上で重要な地域で
もある。
こうしたアジアユーラシア地域森林の樹木のCO2素収支特性を生態系レベルで考え比較するため、同一の方法を用い各地の樹木個体呼吸
を測定した。近年の研究では、森林のCO2収支特性を決める最も重要な要因は呼吸であると考えられ始めている。しかし、根を含んだ樹木
個体呼吸を、植生帯、樹種、立地条件、林齢を越え幅広く比較し、検討した研究例は無く、幹や葉など小さな器官レベルでの比較しかない。
本研究では独自に大型樹木個体呼吸の日中暗呼吸速度を非破壊測定する閉鎖循環型の装置を開発した。内部の温度を永久凍土と焚き火の熱を利用し、パソコンでPID制御
してステップアップダウンした。また、根も地下から傷つけないように取り出し個体全体の呼吸を測定した。
その結果、上記の植生帯(熱帯〜亜寒帯林)、樹種(シベリアカラマツ〜安比ブナ〜ボルネオ、フタバガキ科樹木)、立地条件、林齢(3年〜240年生)などの様々な条
件を越え、「樹木個体呼吸の一般法則」と考えられる結果を得た。すなわち、上記条件にかかわりなく、ある大きさ以上の個体レベルの樹木呼吸は個体表面積あたり一定で
あり、かつ、ある大きさ以下では個体重量当たり一定であった。個体呼吸が上記条件によらず一定であるという結果は、これまで様々な研究で示されてきた器官スケーリン
グでの呼吸の違いが個体スケーリングでは一種のノイズであることを示している。生態系の呼吸を推定するベースとしては、器官スケーリングより個体スケーリングが有効
であり、今回の結果は生態系間の比較をする上でベースとなる一般則となろう。
本発表では、今回の結果からシベリアの永久凍土地帯に成立するカラマツ林の二酸化炭素収支を推定した。この試験地の最低気温マイナス60度、年平均気温がマイナス10
度、年降水量は約300mmである。こうした栄養塩類の乏しい永久凍土上にはカラマツ森林が成立しており、地下部へのアロケーションも高い。こうした気候条件の永久凍土
地帯のカラマツ林がCO2収支の上でどのように寒冷適応しているか、他の地域の森林生態系のCO2収支と
比較検討する。
哺乳動物には白色と褐色の2種類の脂肪組織があり、両者共に寒冷への応答に重要な役割を果たしている。即ち、寒冷刺激が加わると交感神経が活性化され、神経終末か ら放出されたノルアドレナリンによって両脂肪細胞の中性脂肪が分解され脂肪酸が遊離する。白色脂肪の脂肪酸は、細胞外に出て全身に供給され筋肉での熱産生などに利用 される。一方、褐色脂肪では脂肪酸が直ぐに酸化分解され、ミトコンドリア脱共役蛋白質UCPによって熱へと変換する。このように脂肪酸は寒冷暴露時の主要な熱源である が、更に、長鎖脂肪酸はUCPの活性化に必須であり、同時に核内受容体PPARを介してUCP遺伝子の発現を増加させる作用も持っている。本シンポジウムでは、これらに関する 研究の現状と我々の小型齧歯類での成績を紹介し、代謝的熱産生やエネルギ ー消費の自律的調節における脂肪組織とUCPの役割について考察する。