新食品素材としての酢卵の研究

1. どんな研究か

酢卵とは、卵を殻ごと醸造酢(米酢を使うことが多い)に浸けて、1週間くらいで溶けたのを確認して卵膜を取り除いてかき混ぜたものである。それを毎日少量飲む。酢卵は、民間伝承健康食品であり、愛好者が多い。

(1) 酢卵は、中国の食品である。中国では、醋蛋(ス-タン)と云う。現在でも中国の全土で利用されており、様々な健康に対する効用が述べられているが1,2)、いつ頃から中国で卵がこのような食形態で利用され始めたかは正確には分らない。しかし、前漢の頃(紀元前202-紀元25年)、卵を薬として利用しているので (「五十二病方」(湖南省の漢代の墓から出土))1)、その頃から酢卵が製造されていた事が推測される。日本には、酒の製造技術と共に、応神天皇(369-404)の頃に入って来たと思われます3-5)。

 卵は栄養価が高く、戦後の食べ物の不足していた頃よりその値段は安定して上がらず、日本人は、イスラエルの一人340ケに次いで鶏卵の消費の多い国である6)(308ケ)。これほど国民の健康に寄与している食品は少ないであろう。卵の栄養価やその成分や、卵の新しい利用法については、最近の書籍などに詳しく述べられている7,8)。

 私の酢卵の研究は、毎日、卵をたべ、殻を割って目玉焼きにしたり、卵は様々な料理に利用されているが、殻は捨てられており、一体何か利用できないものかと云う率直な発想からである。また、地域の鶏卵養鶏業者からは、地元大学との共同研究で付加価値の高い鶏卵製品が開発できないかというと云う要望もあります。卵の成分は、未だ機能性食品になるような食品素材にはなっては いないが、今後のその機能性研究の進展によって期待される食品のように感じられます。

 酢卵の研究:

 酢卵に注目した事は、酢卵は卵殻を溶解しているのでカルシウムが非常に多く含まれている事でした。この酢卵を新しいカルシウム食品素材として活用したいと云う考えです。従って、この酢卵のカルシウムが、普通の食品のカルシウムにくらべてその利用性が良いかどうか調べているのが私の研究です9-11)。ラットによる動物実験で、酢卵のカルシウムの利用性が、炭酸カルシウムや酢酸カルシウムより有意に良い結果です。国内での発表9,10)の他に、1995年、北京で開催された第7回アジア栄養学会議での私どもの酢卵カルシウムの利用性を発表しましたが、これに対する中国、韓国、タイなどアジアの研究者の期待感は、相当なものであった11) 。なお、酢卵の骨塩減少に対する効果については望月らの研究が報告されています12)。最近の健康雑誌にも、解説を述べてあります13)。

 本研究は、このような酢卵の特徴を活かしたカルシウム食品の開発を目指している。

3. 酢卵参考論文

1)          編著、 蛋治病養生555方、

江西科学技木出版社 (1994).

2) 黄刀石 編、醋蛋神功、厂西民族出版社 (1990).

3) 乾 昌弘、日本醸造協会誌、89、922-925 (1994).

4) 飴山實、大塚滋 編、酢の科学、朝倉書店(1990).

5)柳沢文正、穂積忠彦 編、酢料理で健康、農山漁村文化協会 (1983).

6) 芦澤正和、梶浦一郎、平宏和、竹内昌昭、中井 博康 監修、食品図鑑、250、女子栄養大学出版部(1995).

7) 浅野悠輔、石原良三 編、卵-その化学と加工技術、光琳(1985)

8) T.Yamamoto, L.R.Juneja and M.Kim, Hen Eggs, CRC Press (1997).

9)前田英克、西澤直行ら (1994、1995)

日本農芸化学会誌 (1994、1995年度大会講演要旨集) 68 : 10 、69 : 343

10) 西澤直行ら(1997)

 日本農芸化学会誌 (1997年度大会講演要旨集)70 : 51

11)  Nishizawa, N., H. Maeda and T. Nagasawa,

 Vinegared egg: bioavailability of calcium from vinegared egg and its

 application to foods, 7th Asian Congress of Nutrition, Symposium

 Abstracts : 147 (Beijing) (1995).

12) 望月聡、正井博之、江澤郁子、家政学雑誌、37、833-839 (1986).

13) 「安心」12月号 (1997). 

4. 連絡先:西澤直行