寒冷バイオシステム研究センター
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III.平成14年の研究活動と研究成果

1.細胞複製研究分野(堤 賢一、斎藤 靖史)

 本研究分野は細胞分裂の課程で細胞の機能がどのような仕組みで維持されたり変化したりする仕組みを解明し、細胞や生物個体に外来遺伝子を導入して新規機能を持たせ る際に導入遺伝子を安定に維持し機能発現させることを目指している。
 本研究分野の現在の研究課題は主として次の3つである。

 (1)染色体遺伝子の複製と転写を統御するメカニズム
 (2)リンドウ越冬芽の形成、寒冷耐性、休眠の機構
 (3)リンドウの生理活性物質の検索、作用機構

(1)本研究は、染色体の機能ドメインの同定とドメイン間の相互作用の解析から染色体全体を統御する仕組みを知ることを目的としている。細胞分裂の際、遺伝子の複製 (コピー)が染色体上のどこから始まるかが周辺遺伝子の発現のオン-オフにどのように関わるかが現在の具体的テーマである。我々はこれまで複製開始および転写プロモ ーターの2つの機能を持つラットの遺伝子領域(oriA1)を肝細胞の分化形質の1つであるアルドラーゼB(AldB)遺伝子上流に見いだし、その機能を解析してきた。
 本年度の研究では、oriA1内のサイトC配列に結合するAlF-C蛋白質が真核生物の複製イニシエーターである複製開始領域認識複合体ORC (Origin Recognition Complex)の サブユニット(Orc1)と結合することを明らかにした(斎藤ら、Nucleic Acids Res., 2002)。 酵母ではORCが複製開始領域に共通する塩基配列(ACS)に直接結合し、複製関連蛋白質因子を集合させて複製が開始するが、我々の結果は、複製開始領域にAlF-CのようなDNA 結合因子が先ず結合し、それにORCが結合することを示している。さらに、AlF-Cとの結合に必要なOrc1の新規蛋白質結合ドメインを同定し、これが出芽酵母、分裂酵母、ア フリカツメガエル、ショウジョウバエにはなく、哺乳類(ヒト、ラット、マウス、チャイニーズハムスター)に特異的に存在するドメインであることを示した(特許) 。
 これらの結果は、哺乳動物の複製開始位置の決定が、AlF-CなどのDNA結合因子を介したORCのリクルートによっておこることを示唆した初めての例である。このモデルが 正しければ、これまで混沌としていた高等動物の複製開始領域には共通配列がないのかという疑問を解決できる。

(2)リンドウ切り花の生産は岩手県が全国一である。主な切り花品種であるエゾリンドウ(Gentiana triflora)はF1品種として生産されているが、親株は自殖弱 勢が強く、自殖を重ねると形質が弱まったり変化したりする。このため、親株の効率的な維持、増殖法の確立のために、越冬芽形成能力の向上が緊急の育種目標となっている。 我々の研究分野は、岩手県安代町花き開発センターと共同でこの問題に取り組んでいる。
 本年度は越冬芽の形成、維持、休眠、寒冷耐性に関わる遺伝子を同定するために、種々の組織のタンパク質を2次元電気泳動で網羅的に解析している。現在までに、越冬 芽で特異的に発現するタンパク質および他に比べ越冬芽で濃度の高いタンパク質を13種類同定した。それらの部分アミノ酸配列を決定した結果、興味あることに、それら の中には国内外の他の研究グループが通常低温などのストレスで誘導されるタンパク質として同定したものが7種類存在した。この結果は、通常のストレス誘導とは異なっ たストレス誘導性タンパク質の発現制御系がリンドウ越冬芽に存在する可能性を強く示唆した。この機構が寒冷耐性や休眠とも連携している可能性がある。我々はこの点に 注目し、抗体を用いたタンパク質発現の詳細な解析を急いでいる。

(3)リンドウの根は地中深く生長し、側根も多数あり、さらに腐敗しにくく処理が困難である。このため、切り花生産者(農家)にとっては"産業廃棄物"となっている。 一方、根は健胃などの薬効をもつといわれ、古くから漢方薬素材として用いられている。しかし、このような素材としては中国から安価なものが輸入されており、県内(国 内)農家が商品にしようとしても太刀打ちできない。このような背景で我々は表記の研究を開始し、根の有効利用を図ろうとしている。
 リンドウ成分の薬理作用については特定酵素活性の阻害など既に幾つかの研究論文が国内外から報告されているが、当研究分野の主たるテーマである細胞増殖・複製に関 する研究は見あたらない。そこで、根から水溶性抽出物を調製して種々の培養ガン細胞に加えて見たところ、細胞死誘導あるいは増殖停止効果が認められた。そこで、マウ スに移植したガン細胞の増殖に対する抑制効果の検討を開始した。ヒト腎ガン細胞をマウス皮下に移植しリンドウ抽出物を毎日1回経口投与(マウス体重10gあたり3.3mg乾 重量の抽出物)したところ、予備的な結果ではあるが、増殖を遅延させる効果が見られた。これについては再度実験を行って確認する予定である。
 以上のように、リンドウ根にはガン細胞の増殖抑制あるいは細胞死誘導活性があることがわかった。マウスに抽出物を与えても体重増でみたかぎり強い毒性もなさそうで ある。安代町では、リンドウ根の乾燥粉末をもちいて日本酒やアイスクリームを試作しているが、このような食品に予防医学的な付加価値を付与できればと考えている。

(a) 発表論文
Saitoh, Y., Miyagi, S., Ariga, H., Tsutsumi, K. (2002)
Functional domains involved in the interaction between Orc1 and transcriptional repressor AlF-C that bind to an origin/promotor of the rat aldlase B gene.
Nucleic Acids Res. 30: 5205-5212.  [Summary]

Wang, Y., Saitoh, Y., Hidaka, S., Sato, T., Tsutsumi, K. (2002)
Replication of plastid DNA.
Recent Res. Devel. Plant Biol. 2: 33-48.  [Summary]

(b) 学会発表
下平義隆,斎藤靖史,堤 賢一 (2002)
ラットDNA複製開始領域・転写プロモーターに作用する一本鎖DNA結合因子.
日本生化学会東北支部シンポジウム・第68回例会

松川和重,日影孝志,斎藤靖史,堤 賢一 (2002)
リンドウ根の細胞増殖抑制因子.
第56回 日本細菌学会東北支部総会, 講演要旨集:37.

斎藤靖史、牛尾健一、堤 賢一 (2002)
ラットDNA複製開始領域に結合する転写抑制因子AlF-Cの機能ドメイン
第3回岩手ゲノムサイエンス研究会

下平義隆、斎藤靖史、山下哲郎、堤 賢一 (2002)
ラットDNA複製開始領域に結合するタンパク質ssPuBF 
第3回岩手ゲノムサイエンス研究会 

松川和重,日影孝志,斎藤靖史,堤 賢一 (2002)
リンドウ抽出物中の細胞増殖抑制因子.
2002年度(平成14年度)日本農芸化学会大会, 大会講演要旨集:41.

斎藤靖史、牛尾健一、堤賢一 (2002)
ラットOrc1の構造とDNA複製オリジンに結合するAlF-Cとの相互作用解析.
第25回日本分子生物学会年会, プログラム・講演要旨集:740.

斎藤靖史、牛尾健一、有賀寛芳、堤 賢一 (2003)
ラット複製開始領域結合タンパク質AlF-C結合に関わるOrc1の機能ドメイン解析. 
第20回染色体ワークショップ, 講演要旨集:40. 

堤 賢一 (2002) 
リンドウの越冬芽で働くタンパク質の解析 
第4回CRCシンポジウム, 講演要旨集:3 

(c) 講演等

(d) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Yoshino, M., Kanazawa, A., Tsutsumi, K., Nakamura, I., Takahashi,K., Shimamoto Y. (2002)
Structural Variation Around the Gene Encoding the α Subunit of Soybean β-Conglycinin and Correlation with the Expression of the α Subunit. 
Breeding Science 52: 285-292.  [Summary]

(e) 特許
堤 賢一、斎藤靖史、馬場憲三、黒岩保幸(2002)
哺乳類DNAの複製阻害方法およびその物質(特願 2002-324353)


2.寒冷シグナル応答研究分野(江尻 愼一郎、木藤 新一郎)

 本研究分野では、寒冷刺激が細胞や個体に生じさせる分子シグナルの伝達経路、その応答や記憶の機構、また、寒冷地に棲息する生物に特有の寒冷耐性機構を解明するこ とを目的とし、本年度は以下の研究課題を中心に研究を展開した。

(1)翻訳制御系に対する寒冷ストレスの影響
(2)植物細胞紡錘体に対する低温の影響
(3)オオムギの春化誘導機構

(1)翻訳制御系に対する寒冷ストレスの影響
 タンパク質生合成とその制御機構を解明することは、バイオサイエンスおよびバイオテクノロジーにおける最も重要な基盤である。農業生産においても、タンパク質が、 何時、何処で、どのくらい作られるかを知り、その過程を制御するシステムを解明し、生物生産の量的・質的改善に応用することが中心的課題となる。特に、"やませ"の常 襲地帯である岩手県においては、翻訳制御系に対する寒冷ストレス影響を解析する必要がある。
 我々は、真核生物のペプチド鎖伸長因子1(EF-1)が4種類の異なるサブユニット(α、β、β'、γ)より構成され、αサブユニットはアミノアシル-tRNAをリボソーム に結合させる因子であり、EF-1ββ'γは結合反応により リボソームより遊離した不活性型のEF-1α・GDPをGTP存在下に活性型のEF-1α・GTPに変換する因子であることを 明らかにするとともに、長い間機能が不明であった EF-1γがglutathione S-transferase(GST)活性を保有することを明らかにしてきた。GSTは寒冷ストレスを始め、多様な ストレスの防御等に関連する多機能酵素の一つであり、EF-1γの機能の解明が待たれる。イネ培養細胞系での本年度の解析結果では、過酸化水素による酸化ストレス、低温 ストレス等でGSTの合成が誘導されることが観察されたが、EF-1γの合成は誘導されなかった。これらのことから、GSTとEF-1γが保有するGSTは異なる機能を有すると推定した。

(2)植物細胞紡錘体に対する低温の影響
 細胞の核分裂過程は、生命活動の中で最もドラマチックな過程であり、その機構は古くより研究が続けられている。従来、染色体の分離に関与する紡錘体の主成分はチュ ーブリンの重合体である微小管であり、アクチンフィラメントは関与しないとされていた。然るに我々は、タバコBY-2細胞を用い、ローダミンファロイジン染色により、紡 錘体中に微小管と配向性を一にするアクチンフィラメントを発見した。本年度は、この結果をさらに確固たるものにするため、分裂期の細胞に対する低温の影響について解 析した。すなわち、微小管およびアクチンフィラメントは、低温処理によりモノマーに崩壊することが知られていたので、一方のフィラメントを安定化する試薬の存在化に、 両フィラメントの安定性を解析した。その結果、大変興味深いことに、アクチンフィラメントを安定化する試薬で微小管が安定化され、逆に、微小管を安定化する試薬が存 在すると、低温下でアクチンフィラメントが観察された。
 以上の結果は、アクチンフィラメントおよび微小管との間に両繊維を安定化する相互作用が存在することを示すものであり、紡錘体中にアクチンフィラメントが存在する ことを支持する重要な結果であると考えられる。

(3)オオムギの春化誘導機構
 "春化"は植物が冬場の低温に曝され、日長が延びてはじめて花芽が形成される現象で、作物の約半数で春化がみられる。二酸化炭素の増加等による気温の上昇は秋蒔きの 麦類等に大打撃を与えるとも言われており、春化機構を解明し、春化を自在に制御することは、グローバルな課題である。本研究では、春化への関与が期待される複数の新 しい遺伝子を単離し、現在、春化との因果関係を明らかにするための解析を行っている。春化機構の解明は、栽培作物の生産地域拡大に繋がるのみでなく、ダイコン等のと う立ちの予防、岩手特産ナバナの生産性の向上、等にも繋がり、寒冷地農業に多くの利益をもたらすと期待される。また、本研究分野では寒冷耐性の高いオオムギ品種を用 いて、耐寒冷性遺伝子の同定を試みている。現在、低温環境下で特異的に転写される複数の遺伝子を同定しており、これらの中から寒冷耐性の引き金となる遺伝子を見出し、 寒冷耐性を有するイネ品種等を開発する基盤を構築する。また、本研究の過程で、オオムギ胚盤等で特異的に発現し、糖の流転に関与すると推定される遺伝子を見いだし、 その細胞内局在性、発現時期、発現誘導等に関する情報を得た。

(a) 発表論文
Ejiri, S. (2002)
Moonlighting functions of polypeptide elongation factor 1: From actin bundling to zinc finger protein R1-associated nuclear localization.
Biosci. Biotech. Biochem. 66: 1-21.  [Summary]

江尻愼一郎 (2002)
タンパク質生合成研究の最近の進歩とその応用.
TOBIN (Tohokubio Insustry Networks) 20: 2-5. 

(b) 学会発表
江尻愼一郎,小林 覚,保田 浩,末永佳代子,小岩弘之,木藤新一郎 (2002)
ペプチド鎖伸長因子1の超多機能性.
2002年度(平成14年度)日本農芸化学会大会シンポジウム,大会講演要旨集,434.

木藤新一郎,佐々木直子,保田 浩,山下哲郎,小岩弘之,江尻愼一郎 (2002) 
発芽時のオオムギ胚盤に存在する23kDaタンパク質(P23k)の機能.
第3回 岩手ゲノムサイエンス研究会 

木藤新一郎 (2002) 
スクロース誘導タンパク質P23kと糖転流との関係.
第7回 ムギ類分子生物学研究会 

木藤新一郎 (2002) 
発芽時のオオムギ胚盤で大量に発現するタンパク質(P23k)の機能 
第8回穂発芽ワークショップ 

神崎比呂、木藤新一郎、加藤清明(2002)
オオムギP23k遺伝子のゲノムマッピング 
第8回穂発芽ワークショップ

(c) 講演等
木藤新一郎(2003)
ムギ類特異的タンパク質(P23k)の機能 -糖転流との関係- 
平成15年度東北6県生物工学推進部会および研究会

(d) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Kamiie, K., Nomura, Y., Kobayashi, S., Taira, H., Kobayashi, K., Matsuzawa, H., Yamashita, T., Kidou, S. and Ejiri, S. (2002)
Cloning and expression of silk gland elongation factor 1γ in Escherichia coli.
  Biosci. Biotech. Biochem. 66: 558-565.  [Summary]

Kato, K., Kidou, S., Miura, H. and Sagawa, S. (2002)
Molecular cloning of the wheat CK2α gene and detection of its linkage with Vrn-A1 on chromosome 5A.
Theor. Appl. Genet. 104: 1071-1077.  [Summary]


3.生体機能開発研究分野(上村 松生、伊藤 菊一)

研究テーマ
 ◎ 植物細胞の低温下での傷害発生とそれを回避する分子機構
 ◎ 植物の超低温下での長期保存の可能性
 ◎ 植物の発熱遺伝子の探索とその利用に関する研究

本研究分野は、植物の低温適応のメカニズムを総合的に解明することを目的としている。現在、外来遺伝子を導入して低温などの環境ストレスに耐性を持つ植物を作成する ことが試みられているが、その試みが実用化されるためには、導入対象となる遺伝子がどのようなメカニズムでストレス耐性を増大させるのかという機能評価を行う必要が ある。その基礎データを得るため、本研究分野では、植物の低温適応と関連して、上記のテーマの下に研究を行っている。以下に、平成14年に得られた主な成果を記す。

(1)植物の低温馴化過程の解析
 2000年末に全ての塩基配列が公開され、モデル植物として広く用いられているシロイヌナズナは、非常に短い時間(<6時間)で低温馴化が可能な植物で、低温馴化や凍 結傷害機構と分子生物学知見を結びつける最適材料の一つである。本研究室では、低温馴化初期過程で特異的に出現する細胞膜タンパク質を網羅的に同定(Kawamura and Uemura、河村・上村)し、その遺伝子を恒常的に発現させた形質転換体を用いて機能解析を行っている。また、ジャガイモ(低温馴化能の異なる種を用いて)低温誘導性転 写因子CBFを恒常発現させた形質転換体を用いた凍結傷害発生機構の解析(本センター客員教授・吉田 静夫氏、及び、オレゴン州立大学Tony Chen教授との共同研究)を開 始した。さらに、凍結耐性の異なるコムギ品種を用いた低温馴化過程で細胞内に蓄積される適合溶質の細胞内局在性を調べる実験が大詰めに近づき、2003年中には決着が付 く見通しがでてきた。

(2)植物の冷温障害機構の解析
 冷温障害発生の原因の一つとして提案されている活性酸素とその発生回避を通じて冷温傷害発生が押さえられる機構を解析するために、北海道グリーンバイオ研究所(本 センター客員教授・猿山 晴夫氏との共同研究)で作成されたコムギカタラーゼ遺伝子を導入した形質転換イネを用いた研究を続けた。その結果、形質転換体では、低温処 理、及び、低温処理後の回復過程の両方で、1) 過酸化水素などの活性酸素発生が押さえられていること、2) 形質転換体では膜過酸化物の生成量が少なく、それに付随す ると考えられる膜傷害発生が押さえられていること、3) カタラーゼ活性は可溶性画分に殆どが存在すること、などを見出した(小野寺ら)。さらに、最近、低温感受性植 物にも低温誘導転写因子CBFが存在することが明らかになり、なぜCBFが存在するにも関わらず低温耐性がないのか、あるいは、何か因子を付加することによって低温耐性を 付与することが可能なのか、といった点に興味が持たれるようになった。そこで、本研究室では、トマトを材料に独)農業技術研究機構東北農業研究センター(野菜育種研 究室・由比 進 室長)と共同研究を開始した。

(3)植物有用遺伝子資源の超低温下における長期保存
地球規模で進む環境変動や過度の開発によって、日々刻々失われている貴重な植物遺伝子資源を安定した状態で長期間保存できれば、将来の世代がその資源を必要とした際 に有効に利用することができる。保存方法として最も信頼性があるのは、超低温(−196℃)における水のガラス化を利用した保存法である。本研究室は、独)農業技術研 究機構東北農業研究センター(畑地利用部・新野 孝男 上席研究官)、および、安代町花き開発センター(本センター客員教授・日影 孝志氏)と共同で、様々な材料を用 いた茎頂の網羅的保存を試みている。現在までに、イチゴ(Niino et al.)、リンドウ(Tanaka et al.、田中ら)などを用いて、非常に高い割合で超低温保存に成功した。 さらに、現在、超低温保存後の生存率を左右する要因を探るため、凍結地寛保などを用いた茎頂組織の微細構造の観察を進めている。

(4)ザゼンソウの発熱制御システムの解析
早春に花を咲かせるザゼンソウは氷点下を含む外気温の変動にもかかわらず、その発熱部位である肉穂花序の温度をほぼ20℃内外に維持する能力を有している。本研究にお いては、肉穂花序における熱産生の素反応の関わる因子の解析等を通じて、植物界では例外的な存在である発熱植物の温度制御システムに関わるメカニズムを明らかにする ことを目的としている。これまで、哺乳動物における非ふるえ熱産生に密接に関わるとされる脱共役タンパク質(UCP)に属する2種類のザゼンソウ遺伝子(SfUCPa & SfUCPb)の同定を行ってきたが、今年は、従来から植物の主たる発熱因子とされてきたシアン耐性呼吸酵素(AOX)をコードする遺伝子(SfAOX)の同定とその発 現解析等を行った。その結果、肉穂花序における熱産生部位と推定される小花において、SfAOXSfUCPbの転写産物が共発現していることなど明らかとなり、 ザゼンソウにおいては、従来想定されていたAOX活性に基づく植物の発熱機構とは異なる熱産生システムが存在する可能性が示された。

(a) 発表論文
Kawamura, Y. and M. Uemura (2002)
Changes in the plasma membrane from Arabidopsis thaliana within 1 week ofcold acclimation. 
In: Plant Cold Hardiness: Gene Regulation and Genetic Engineering, P.H. Li and E.T. Palva, eds., Plenum Press, New York, pp.181-194.   [Summary]

上村松生、中川原千早、河村幸男、吉田静夫、江藤剛治、竹原幸生 (2002)
細胞内凍結の低温馴化過程における変動と高速ビデオカメラを用いた観察.
低温生物工学会誌48巻、(印刷中)  [Summary]

田中大介、新野孝男、五十鈴川寛司、日影孝志、上村松生 (2002)
ガラス化法およびビーズガラス化法を用いた培養植物茎頂の超低温保存.
低温生物工学会誌48巻、(印刷中)  [Summary]

(b) 学会発表
Kawamura, M. and M. Uemura (2002)
Mass spectroscopic identification of plasma membrane proteins in Arabidopsis thaliana that change during 1 week of cold acclimation.
Plant Biology 2002, Denver, Co, USA. Abstract #11002(ミニシンポシウム招待講演).

Kawamura, M. and M. Uemura (2002)
Mass spectroscopic identification of plasma membrane proteins in Arabidopsis thaliana that change within 1week of cold acclimation.
Plant Biology 2002, Denver, Co, USA. Abstract #642.

Ito, K. and R. Seymour (2002)
Isolation of a gene encoding uncoupling protein from the thermogenic inflorescence of the dead horse arum Helicodiceros muscivorus.
Plant Biology 2002, Denver, Co, USA. Abstract #652.

Ito, T. and K. Ito (2002)
Chaotic behavior in the core temperature of the spadix of Asian skunk cabbage.
Plant Biology 2002, Denver, Co, USA. Abstract #101.

Tanaka, D., T. Niino, K. Isuzugawa, T. Hikage and M. Uemura (2002)
Cryopreservation of in vitro-grown apical shoot tips of Gentiana by vitrification-based protocols.
39th Meeting of the Society for Cryobiology, Breckenridge, CO, USA. Cryobiology 45: 268.

河村幸男、上村松生 (2002)
耐凍性増大と細胞膜の変化:シロイヌナズナを用いた蛋白質のプロテオーム解析.
第6回生体膜シンポジウム.(招待講演)

河村幸男、上村松生 (2002)
低温馴化過程で変化するシロイヌナズナ細胞膜タンパク質の同定.
日本植物生理学会2002年度年会.要旨集 p. 208.

中川原千早、河村幸男、吉田静夫、江藤剛治、竹原幸生、上村松生 (2002)
低温馴化過程における細胞内凍結の変動.
日本植物生理学会2002年度年会.要旨集 p. 208.

上村松生、中川原千早、河村幸男、吉田静夫、江藤剛治、竹原幸生 (2002)
細胞内凍結の低温馴化過程における変動と高速ビデオカメラを用いた観察.
第48回低温生物工学会.要旨集 p.34.

田中大介、新野孝男、五十鈴川寛司、日影孝志、上村松生 (2002)
ガラス化法およびビーズガラス化法を用いた培養植物茎頂の超低温保存.
第48回低温生物工学会.要旨集 p.35.

小野寺秀宜、相馬ちひろ、猿山晴夫、上村松生 (2002)
イネ葉の呼吸・光合成活性に対する低温とコムギカタラーゼ過剰発現の影響.
日本植物学会第66回大会.要旨集 p.122.

上村松生、河村幸男、藤田弥佳、小松節子 (2002)
イネ細胞膜タンパク質のプロテオーム解析.
第25回日本分子生物学会年会.要旨集 p.74.

伊藤菊一 (2002)
赤外線カメラによるザゼンソウおよびヒトデカズラの発熱特性の解析.
日本農芸化学会2002年度(平成14年度)大会.要旨集 p.273.

伊藤菊一、恩田義彦、上村松生 (2002)
時間軸依存型体温振動システムによるザゼンソウの肉穂花序における温度制御機構.
日本植物生理学会2002年度年会.要旨集 p.164.

伊藤菊一 (2002)
恒温植物の体温制御システム.−ザゼンソウの発熱応答システム−
第61回農業機械学会(平成14年度)年次大会.講演要旨集 p.1-2.(招待講演)

伊藤孝徳 (2002)
ザゼンソウの体温振動リズム解析とモデル化への試み.
第61回農業機会学会(平成14年度)年次大会.講演要旨集 p.3-4.(招待講演)

Ito, K., Y. Abe and R. Seymour (2002)
Ubiquitous expression of a gene encoding for uncoupling protein isolated from the thermogenic inflorescence of the dead horse arum Helicodiceros muscivorus
第25回日本分子生物学会年会.要旨集 p.176.

(c) 講演等
上村松生 (2002)
岩手でバナナが育たないわけ.
INS公開セミナー「大学はおもしろい!−理工農系の世界への誘い−」.

伊藤菊一 (2002)
発熱する植物.
第4回白馬ざぜんそう祭り.

伊藤菊一 (2002)
ザゼンソウの世界.
北上ざぜんそうの里開園記念講演会.

伊藤菊一 (2002)
世界の発熱植物の探索:オーストラリアに自生する発熱植物の解析.
第4回CRCシンポジウム.

Ito, K (2002)
Characterization of the temperature sensor which regulates heat production in skunk cabbage (Symplocarpus foetidus).
パデュー大学特別セミナー.

(d) 特許
伊藤菊一、伊藤孝徳 (2002)
温度制御装置、それを用いた植物体の体温測定装置、及び、植物体の体温変動測定方法.(特願2002−272061)

伊藤菊一、伊藤孝徳 (2002)
生体時系列信号解析装置および生体時系列解析方法.(特願2002-345307)

(e) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Niino, T., D. Tanaka, S. Ichikawa, J. Takano, S. Ivette, K. Shirata and M. Uemura (2002)
Cryopreservation of in vitro grown apical shoot tips of strawberry by vitrification: technical key factors enhancing survival rate.
39th Meeting of the Society for Cryobiology, Breckenridge, CO, USA. Cryobiology 45: 267.

石川覚、我妻忠雄、上村松生 (2002)
ライコムギのAl耐性に対する根放出有機酸と根端原形質膜の貢献度比較.
日本土壌肥料学会2002年度大会.

田中直樹、藤田弥佳、半田裕一、村山誠治、上村松生河村幸男、三ツ井敏明、三上暁、戸澤譲、吉永哲栄、小松節子 (2002)
イネ細胞内小器官プロテオミクス:イネゲノム機能解明を目指して.
第25回日本分子生物学会年会.要旨集 p.74.


4.主催したシンポジウム

  第4回CRCシンポジウム 多様な環境への生物の適応
   日時:平成14年7月12日(金)午後2時から
   場所:岩手大学農学部1号館2階 大会議室
   主催:岩手大学農学部附属寒冷バイオシステム研究センター

 平成14年7月12日(金)、農学部1号館2階の大会議室にて第4回CRCシンポジウムを開催しました。この公開シンポジウムは"寒冷生物学"に関連する話題の提供とセンター の研究紹介を目的として毎年1回開催しています。今回のテーマは「多彩な環境への生物の適応」ということで、センター教員3名および外部の先生2名にそれぞれ行ってい る研究を中心に解説していただきました。 (講演要旨はhttp://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~icg-1/Symposium/Sympo-4/abst-4.html でも公開)。

−発表題名および発表者−

「世界の発熱植物の探索:オーストラリアに自生する発熱植物の解析」
  伊藤 菊一(センター生体機能開発研究分野)

「タンパク質生合成系をめぐる環境応答」
  江尻 慎一郎(センター寒冷シグナル応答研究分野)

「リンドウの越冬芽で働くタンパク質の解析」
  堤 賢一(センター細胞複製研究分野)

「CO2濃度上昇によるイネ・水田の変化を探る:雫石FACE実験」
  岡田 益己(東北農業研究センター)

「フィールドからのイネ遺伝子資源の探索」
  佐藤 雅志(東北大大学院生命科学研究科)


5.主催したセミナー

(CRCセミナー) 

第20回 2月14日 遺伝的組換え開始の分子機構
           小川英行 岩手看護短期大学学長(大阪大学名誉教授)

第21回 2月22日 私の遺伝的組換えの分子機構の解析について
          −RecA−Rad51−Rad52−Mre11−
           小川智子 岩手看護短期大学副学長(国立遺伝学研究所名誉教授、前副所長)

第22回 5月18日 植物の超低温保存技術の最近の進歩と展望
           酒井昭 北海道大学名誉教授

第23回 5月27日 自然科学とコンピュータ・シュミレーション
           伊藤孝徳 生研機構
          遺伝子導入によるリンゴ斑点落葉病抵抗性
           加藤善明 生研機構
          ペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)における低温馴化過程の分子・細胞生物学的研究
           富永陽子 生研機構

第24回 6月10日 Cold Tolerant Tomato by Genetic Engineering of Glycinebetaine Biosynthesis
            Tony H.H. Chen Prof. Department of Horticulture, Oregon State University

第25回 11月15日 遺伝子組み換え食品 ―これまで、現状、これから―
           川口啓明 科学アナリスト

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