研究紹介


食肉科学研究室

准教授 村元隆行

 はじめに

 食肉科学研究室は2006年8月に開設した研究室であり、動物科学課程において主に食肉科学の研究を担当しています。本学で食肉科学の研究を専門に行う研究室は初めてであり、測定機器はおろか試験管すら1本もないところからのスタートでした。現在も設備的にまだまだ不十分ですが、必要な実験器具が揃い始めてきたため、少しずつですが、本格的な研究を進めることができるようになってきました。これも、周囲の多くの皆様の御支援によるものであると感謝しています。特に研究室の立ち上げに協力してくれた1期生を始め、これまでの卒業生達、そして今現在の学生達には感謝しきれない思いです。


 研究分野・対象

 食肉科学の分野には「生産」、「構造・成分」、「美味しさ・熟成」、「栄養」、「調理」、「加工」、「貯蔵」、および「安全性」と幅広いものがあります。ここで、動物資源利用学研究室では、構造・成分、美味しさ・熟成、調理、および貯蔵について主に研究を行っています。また、安全性については本農学部付属の動物医学食品安全教育研究センターにて研究を行い、生産及び栄養については他の研究機関と、加工については民間企業と、それぞれ共同研究を行っています。

 研究対象については、これまで最も研究が進んでいる生産動物の筋肉が中心となりますが、技術の応用および新分野への発展という観点から、野生動物や希少動物の筋肉も研究対象としています。また、究極的に、既に絶滅してしまった動物の筋肉がどのような特性を持っていたのかを、食肉科学の研究手法によって解明することを視野に入れた研究も行っています。


 研究内容

 研究分野が幅広い食肉科学ですが、共通のキーワードは「高品質」です。したがって、食肉科学の研究は、高品質な食肉を高品質なまま消費者の口に運ぶための研究が中心になっています。

 食肉の品質を評価する場合、大学、研究機関、および食品メーカーの研究所などでは、主に「理化学分析」および「官能検査」が行われています。理化学分析では、水分含量、脂肪含量、およびタンパク質含量などの一般的な成分や、色調、保水力、加熱損失割合、および剪断力価などの物理的な性質が分析されています。官能検査では、食肉を実際に喫食することによって、軟らかさ、風味、および多汁性などが評価されています。

 一方、私たち消費者が食肉の品質を評価する場合はどうでしょうか。私たちが食肉を購入するために食肉店に行くと、販売されている食肉のほとんどはトレイに乗せられてパック詰めされています。したがって、私たちは見た目などの限られた情報から食肉の品質を判断せざるをえないのが実情です。そのため、「食肉を購入する際に最も重視する品質は何か」というアンケート調査に対しては、約6割の消費者が「新鮮な肉の色」と答えています。これは、店頭で得られる少ない情報の中で、肉の色からは新鮮さや風味などが経験的に判断できるためであると考えられています。そこで、消費者の購買意欲に最も影響を及ぼしている品質は色調および肉色安定性であると考え、これらの情報から、食肉の品質を総合的に評価するための研究を行っています。

 また、肉の色と同様に重要だと考えている品質に「軟らかさ」があります。購買時に最も重要な品質は肉の色ですが、購買後、実際に喫食する際、消費者にとって最も判断しやすい品質は軟らかさであるためです。そこで軟らかさを客観的に評価するため、理化学分析と官能検査とを並行して行い、喫食時に判断される軟らかさを数値化するための研究を進めています。


 こだわり

 研究内容については二つのこだわりを持っています。一つは日本短角種の研究を継続すること、もう一つは非破壊分析の方法を開発することです。日本短角種は岩手県が主要産地である和牛で、その牛肉は霜降りではなく赤身ですが、私がこれまで食した牛肉の中では最高に美味しいと考えています。この牛肉が美味しい理由について、ぜひ解明していきたいと思っています。非破壊分析にこだわるのは、入手の困難な貴重な筋肉であっても、非破壊分析であれば元の状態のまま保持できるためです。例えば、美味しい牛肉が分析で消失してしまうのはもったいないということです。


 学外での研究

 食肉科学研究室では、研究室内で行う分析やゼミだけではなく、学外でのサンプリングや調査なども重要であると考え、毎年恒例の行事としているものがあります。例えば、研究機関と共同で日本短角種などを屠殺しての筋肉採取、行政機関と共同でニホンカモシカなどを屠殺しての筋肉採取、クマ肉などの貴重な食肉の販売動向の調査、日本短角種肥育牛の放牧状況の調査、現地に出向いての生産者や民間企業担当者との1泊2日にわたる勉強会などがあります。


 最後に

 今後も、食肉科学の研究を通して、将来を担う学生達に学問の意義や楽しさを伝え、また目標を達成するために必要な考え方を教えていくとともに、食生活からは切り離せない食肉の研究結果を、消費者に少しでも多く情報提供できるよう努めていきたいと考えています。今後とも宜しくお願い申し上げます。



写真1.筋肉の非破壊分析  写真2.牛肉の官能検査  写真3.日本短角種の筋肉採取  写真4.ニホンカモシカの筋肉採取 


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