寒冷バイオシステム研究センター | ||||||||||||||
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>年報 2000 (Vol.3)>V | [ 目次 | II | III | IV | V | VI | VII | VIII ] |
◇日本学術振興会 「未来開拓学術研究プロジェクト」
研究テーマ:生命科学と化学的手法の融合による新有用物質生産
「無細胞蛋白質合成系の安定化と翻訳反応の効率化」研究班
(代表 愛媛大・工 遠藤弥重太 教授、研究分担者 寒冷シグナル応答分野 江尻愼一郎)
我々は、真核生物のペプチド鎖伸長因子1(EF-1)は4種類の異なるサブユニット(αββ'γ)より構成され、αサブユニットはアミノアシル-tRNAをリボソームに結合させ
る因子であり、EF-1ββ'γ(βおよびβ')は結合反応によりリボソームより遊離した不活性型のEF-1α・GDPを、GTP存在下に活性型のEF-1α・GTPに変換する因子である
ことを明らかにするとともに、長い間機能が不明であったEF-1γはglutathione S-transferase(GST)活性を保有することを明確にしてきた。本年度はGFP(green fluorescent
protein)とEF-1γとの融合タンパク質をタバコ培養細胞で発現させ、細胞内局在性を解析した結果、融合タンパク質が間期の細胞では細胞質のアクチンフィラメント上に、
また細胞分裂途上の細胞では、染色体の分離に関与する紡錘体上に存在すること等、予想外の成果が得られた。
研究テーマ:植物の殺虫性環状ペプチド類の探索と利用技術の開発;殺虫性物質の合成関与遺伝子の単離および構造の解析
(代表者 中国農業試験場 石本政男、研究分担者 寒冷シグナル応答分野 江尻愼一郎)
殺虫性環状ペプチドvignatic acid(VA)の生合成機構を明らかにすることを目的に、アズキゾウムシ抵抗性のリョクトウ野生種(TC1966)から、粗抽出液を調製し、ゲル濾過、
ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー等で、VA合成酵素の単離を試みている。これらのカラムクロマトグラフィーで、VAを構成するLeu、PheおよびTyrをATP存在
下に結合する画分が得られたので、VAはグラミシジンSのように、酵素複合体で合成されるものと推定した。今後、活性画分をさらに精製し、VA合成酵素複合体を単離する。
また、新規殺虫性物質の遺伝子を大腸菌で発現し、構造と機能の解析、抗体作成等を進めている。
全体課題名:植物の耐寒性形質に関わる分子機能の複合的解析とその応用
上村松生(総括研究代表者、生体機能開発研究分野)、西田生郎(東京大学大学院助教授)、和田 元(九州大学大学院助教授)、石川雅也(農水省農業生物
資源研究所主任研究官)、伊藤菊一(生体機能開発研究分野)、藤川清三(北海道大学大学院教授)、荒川圭太(北海道大学低温科学研究所助手)、竹澤大輔(北海道大学
低温科学研究所助手)
担当課題名: 耐凍性増大の分子的メカニズムに関する基礎的研究−生体膜の安定性に注目して−
本プロジェクトは、分子生物学的アプローチと生理・生化学的アプローチの有機的連携によって、高耐寒性植物を作出する際に広範囲にわたり応用可能な分子育種論を確
立するための基礎的な情報を得ることを目標としている。具体的には、・アクティベーション・タギング法を用いた新規耐寒性関連遺伝子群及びその調節因子の探索と同定、
・耐寒性の程度や機構の異なる植物を用いた耐寒性獲得(低温馴化)分子機構の解析、・耐寒性獲得過程で起こる様々な物質変動及び低温誘導遺伝子群の機能評価、を行っ
た上で、これらの研究成果を統合して、・耐寒性関与遺伝子群の耐凍性獲得機構における分子的関与をin vivo及びin vitroの両面から解析することを提案ている。現在ま
でに、各々の研究項目で成果を上げており、今後は第2フェーズ(応用を視野に入れた)へと移行しつつある。
全体課題名:タンパク質の構造解析を利用した単離及び機能解明(イネプロテオーム)
上村 松生、伊藤 菊一(生体機能開発研究分野)
担当課題名:イネ細胞膜タンパク質の網羅的解析と耐冷性に関連した有用遺伝子単離・機能解明
本プロジェクトは、農水省が推進してきた「イネゲノムプロジェクト」で得られた情報の集約化と新たなる発展を期して開始されたものである。その趣旨は、「これまで、
DNAレベルの機能解析手法により有用遺伝子の単離及び機能解析を進めてきたところであるが、タンパク質レベルの機能解析手法はこれまで存在せず、学術的な研究にとど
まっていた。しかし、最近タンパク質の立体構造解析及び機能解明に関する研究が進展しつつあることから、タンパク質レベルでの機能解析手法を新たに導入することによ
り、従来のDNAレベルの機能解析手法では見つからない機能性物質生成関連遺伝子等の効率的な単離・機能解明と特許化を加速する」と記載されている。3つある研究項目
のうち我々のプロジェクトが所属する「タンパク質の構造解析を利用した単離及び機能解明」分野では、イネから分離・精製した時期特異的・組織特異的タンパク質の発現
状況や翻訳後修飾等を分析するとともに、構造決定を行い、そのcDNA塩基配列情報から遺伝子単離、そして、形質転換体によるその遺伝子の機能解析を行うことを、その具
体的内容としている。我々は、イネ幼葉の細胞膜に焦点を当て、そのタンパク質解析を行う予定である。
研究テーマ:ザゼンソウ由来のucpのイネへの導入
伊藤 菊一、上村 松生(生体機能開発研究分野)
「やませ」に代表される低温によるイネの冷害は我が国の穀物生産において深刻な問題になっている。一方、早春に花を咲かせるザゼンソウは気温が氷点下にまで低下す る環境においても、発熱によりその花序を25℃程度に保つ能力を持つことから、ザゼンソウの持つ発熱関連遺伝子をイネに導入することにより、発熱により低温障害を回避 できる耐冷性イネの作出が期待される。本研究においては、ザゼンソウ由来の発熱関連遺伝子(ucp)をイネに導入し、低温回避型のイネの作出を試みている。