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>年報 2003 (Vol.6)>III | [ 目次 | II | III | IV | V | VI | VII | VIII ] |
(1)染色体遺伝子の複製と転写を統御するメカニズム
(2)リンドウ越冬芽の形成、寒冷耐性、休眠の機構
(3)リンドウの生理活性物質の検索、作用機構
これらの研究成果は、平成14年度着手大学評価・学位授与機構による評価によって研究内容及び水準において"特にすぐれた研究(卓越した研究)"、研究の社会的効果に おいて"優れた成果"と評価された。
(2)リンドウ切り花の生産は岩手県が全国一である。主な切り花品種であるエゾリンドウ(Gentiana triflora)はF1品種として生産されているが、親株は自殖弱 勢が強く、自殖を重ねると形質が弱まったり変化したりする。このため、親株の効率的な維持、増殖法の確立のために、越冬芽形成能力の向上が緊急の育種目標となっている。 我々の研究分野は、岩手県安代町花き開発センターと共同でこの問題に取り組んでいる。
(3)リンドウの根は地中深く生長し、側根も多数あり、さらに腐敗しにくく処理が困難である。このため、切り花生産者(農家)にとっては"産業廃棄物"となっている。
一方、根は健胃などの薬効をもつといわれ、古くから漢方薬素材として用いられている。しかし、このような素材としては中国から安価なものが輸入されており、県内(国
内)農家が商品にしようとしても太刀打ちできない。このような背景で我々は表記の研究を開始し、根の有効利用を図ろうとしている。
リンドウ成分の薬理作用については特定酵素活性の阻害など既に幾つかの研究論文が国内外から報告されているが、当研究分野の主たるテーマである細胞増殖・複製に関
する研究は見あたらない。そこで、根から水溶性抽出物を調製して種々の培養ガン細胞に加えて見たところ、細胞死誘導あるいは増殖停止効果が認められた。そこで、ヒト
腎ガン細胞をマウス皮下に移植しリンドウ抽出物を毎日1回経口投与(マウス体重10gあたり3.3mg乾重量の抽出物)したところ、増殖を遅延させる効果が見られた。現在、
リンドウ根抽出物からの活性物質の精製を行っている。
マウスに抽出物を与えても体重増でみたかぎり強い毒性もなさそうである。安代町では、リンドウ根の乾燥粉末をもちいて日本酒やアイスクリームを試作しているが、こ
のような食品に予防医学的な付加価値を付与できればと考えている。
(b) 学会発表
Tsutsumi, K.(2003)
Transcription factors implicated in switching from transcription to replication.
XIIth Inteernational congress on genes, gene families and isozymes, Berlin, Germany.
高橋美穂,日影孝志,山下哲郎,斎藤靖史,遠藤元庸,堤 賢一(2003)
リンドウの越冬芽で特異的に発現するタンパク質の解析
日本育種学会第103回講演会,千葉.
高橋淳子,森 大輔,斎藤靖史,堤 賢一(2003)
染色体部位特異的遺伝子挿入によるラットAldB複製開始領域の解析
第26回日本分子生物学会年会,神戸.
(d) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
安永千秋,辻本恒徳,斎藤靖史,堤 賢一,猪熊道仁,羽田真悟,弘田利恵,大澤健司,三宅陽一(2003)
PCR法を用いた鳥類の雌雄判別の有用性
第9回日本野生動物医学会大会,沖縄.
岩本 渉,吉田啓記,松原和衛,高橋寿太郎,御領政信,斎藤靖史,吉田 登,小松繁樹,川畑享子,萱野裕是(2003) 岩手地鶏の始原生殖細胞(PGC)を用いた生殖系キメラ作出の試み 東北畜産学会第53号大会.東北畜産学会誌,p.46
(1)翻訳制御系に対する寒冷ストレスの影響
(2)植物細胞紡錘体に対する低温の影響
(3)オオムギの春化誘導機構
(2)植物細胞紡錘体に対する低温の影響
細胞の核分裂過程は、生命活動の中で最もドラマチックな過程であり、その機構は古くより研究が続けられている。従来、染色体の分離に関与する紡錘体の主成分はチュ
ーブリンの重合体である微小管であり、アクチンフィラメントは関与しないとされていた。然るに我々は、タバコBY-2細胞を用い、ローダミンファロイジン染色により、紡
錘体中に微小管と配向性を一にするアクチンフィラメントを発見した。本年度は、この結果をさらに確固たるものにするため、分裂期の細胞に対する低温の影響について解
析した。すなわち、微小管およびアクチンフィラメントは、低温処理によりモノマーに崩壊することが知られていたので、一方のフィラメントを安定化する試薬の存在下に、
両フィラメントの安定性を解析した。その結果、大変興味深いことに、アクチンフィラメントを安定化する試薬で微小管が安定化され、逆に、微小管を安定化する試薬が存
在すると、低温下でアクチンフィラメントが観察された。
以上の結果は、アクチンフィラメントおよび微小管との間に両繊維を安定化する相互作用が存在することを示すものであり、紡錘体中にアクチンフィラメントが存在する
ことを支持する重要な結果であると考えられる。
(a) 学会発表
赤坂伸子,加藤清明,木藤新一郎,三浦秀穂,沢田壮兵(2003)
オオムギカゼインキナーゼ2α、βサブユニット遺伝子のマッピング
日本育種学会第104回講演会,神戸. 育種学研究,5(2):133
木藤新一郎,及川愛,江尻愼一郎(2003)
オオムギ特異的23kDaタンパク質(P23k)の発現解析
日本育種学会第104回講演会,神戸. 育種学研究,5(2):308
(c) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Kamiie, K., T. Yamashita, H. Taira, S. Kidou and S. Ejiri (2003).
Interaction between elongation factors 1β and 1γ from Bombyx mori Silk Gland.
Biosci Biotechnol Biochem. 67: 1522-1529 [Summary]
本研究分野は、植物の低温適応のメカニズムを総合的に解明し、その成果を利用すること目的としている。現在、外来遺伝子を導入して低温などの環境ストレスに耐性を 持つ植物を作成することが試みられているが、その試みが実用化されるためには、導入対象となる遺伝子がどのようなメカニズムでストレス耐性を増大させるのかという機 能評価を行う必要がある。その基礎データを得るため、本研究分野では、植物の低温適応分子機構の解明、また、植物が低温下で生育できる機構を応用した植物遺伝資源の 長期保存システム確立を目指して研究を行っている。以下に、平成15年に得られた主な成果を記す。
1. 植物の低温馴化過程の解析 2000年末に全ての塩基配列が公開され、モデル植物として広く用いられているシロイヌナズナは、非常に短い時間(<6時間)で低温馴化が可能な植物で、低温馴化や凍 結傷害機構と分子生物学知見を結びつける最適材料の一つである。本研究室では、低温馴化初期過程で特異的に出現する細胞膜タンパク質を網羅的に同定した。その中から、 lipocalin-likeタンパク質とデハイドリンの一種ERD14タンパク質をコードする遺伝子を導入し、過剰発現させたシロイヌナズナ形質転換体を作成して、これらのタンパク 質の耐凍性に対する機能評価を行った。その結果、両者共に過剰発現体で耐凍性増大が認められ、凍結発生機構の解析から両者が異なった機構で耐凍性増大に貢献している ことが示唆された。現在、さらに詳細な実験を行い、確認を行っている。
2. 植物有用遺伝子資源の超低温下における長期保存
地球規模で進む環境変動や過度の開発によって、日々刻々失われている貴重な植物遺伝子資源を安定した状態で長期間保存できれば、将来の世代がその資源を必要とした
際に有効に利用することができる。保存方法として最も信頼性があるのは、超低温(−196℃)における水のガラス化を利用した保存法である。本研究室は、独・農業生物
資源研究所ジーンバンク(新野 孝男・上席研究官)、および、安代町花き開発センター(本センター客員教授・日影 孝志氏)と共同で、多様なリンドウ遺伝資源(茎頂)
の網羅的超低温保存を試みている。本年度は、ガラス化過程で起こっている細胞超微細構造の観察を無水系溶媒中での凍結置換法を用いて試料を調整して電子顕微鏡観察を
行った。その結果、液体窒素温度中での植物茎頂細胞の微細構造を詳細に観察することに成功した。ガラス化がうまくいった場合とガラス化しなかった場合は、細胞内の氷
晶形成や細胞内小器官構造が大きく異なっていることも明らかに示すことができた。本知見から、ガラス化と超低温下での生存の間に密接な関係があることがわかった。
(a) 発表論文および著書
Uemura, M., G. Warren and P. L. Steponkus (2003)
Freezing sensitivity in the sfr4 mutant of Arabidopsis thaliana is due to sucrose deficiency, and is manifested by loss of osmotic
responsiveness.
Plant Physiology 131: 1800-1807. [Summary]
Kawamura, Y. and M. Uemura (2003)
Mass spectrometric approach for identifying putative plasma membrane proteins of Arabidopsis leaves associated with cold acclimation.
Plant Journal 36: 141-154 [Summary]
Ito, K., Y. Abe, S. Johnston and R. Seymour (2003)
Ubiquitous expression of a gene encoding for uncoupling protein isolated from the thermogenic inflorescence of the dead horse arum Helicodiceros
muscivorus.
Journal of Experimental Botany 54: 1113-1114. [Summary]
伊藤菊一(2003)
ザゼンソウの発熱制御システム.
日本光合成研究会会報 36: 11-13.
(b) 学会発表
Tanaka, N., H. Handa, S. Murayama, M. Uemura, Y. Kawamura, T. Mitsui and S. Mikami (2003)
Proteomics of organelles from rice cell: step towards a functional analysis of the rice genome.
PAG Xl Meeting, San Diego, California, USA.
Kato, Y., Y. Onda, and K. Ito (2003)
Heat-production and expression analysis of genes encoding for mitochondrial alternative oxidase and uncoupling proteins in two Symplocarpus species,
S. foetidus and S. nipponicus.
Gordon Research Conference, Ventura, California, USA.
Tominaga, Y., C. Nakagawara, Y. Kawamura and M. Uemura (2003)
Functional analysis of the genes encoding cold-acclimation-responsive plasma membrane proteins in Arabidopsis thaliana.
Plant Biology 2003, Honolulu, Hawaii, USA. Abstract, p.205
Ito, T. and K. Ito (2003)
Computer-simulation of mitochondrial respiratory activity that controls the homeothermic heat-production in the spadix of skunk cabbage, Symplocarpus
foetidus.
Plant Biology 2003, Honolulu, Hawaii USA. Abstract, p.81
Uemura, M., Y. Tominaga, C. Nakagawara and Y. Kawamura (2003)
Role of plasma membrane proteins in cold acclimation of Arabidopsis thaliana.
1st Hitsujigaoka Workshop, Sapporo.(招待講演)Abstract, p.16
Kamata, T. and M. Uemura (2003)
Changes in subcellular localization of the compatible solutes during the first- and second-phase of cold hardening in wheat.
1st Hitsujigaoka Workshop, Sapporo. Abstract, p.39
伊藤孝徳,伊藤菊一(2003)
ザゼンソウの肉穂花序における体温振動の解析とモデル化
日本植物生理学会2003年度大会,奈良.
鎌田 崇,上村松生(2003)
コムギ低温順化過程における適合溶質細胞局在性の決定
日本植物生理学会2003年度年会,大阪.Plant Physiol 44: S-100
上村松生,富永陽子,鎌田崇,中河原千早,河村幸男,小島研一(2003)
細胞の凍結適応
第49回低温生物工学会年会・セミナー(シンポジウム講演),札幌.要旨集,p.11
上村松生(2003)
低温顕微鏡と高分解ビデオを用いたプロトプラストの凍結機構の解析
日本顕微鏡学会第59回学術講演会(シンポジウム講演),札幌.要旨集,p.108
上村松生,富永陽子,中川原千早,河村幸男(2003)
低温馴化において変動する細胞膜タンパク質の役割
日本植物学会第67回大会(シンポジウム講演),札幌.要旨集,p.78
伊藤菊一,佐藤武博,恩田義彦(2003)
発熱植物ザゼンソウ由来の alternative oxidase 遺伝子の発現と機能解析
日本生化学会東北支部第69回例会,仙台.
Ito, K., Y. Onda and Y. Kato(2003)
Plant heat-generating cells co-express novel uncoupling protein and alternative oxidase.
第76回日本生化学会大会,横浜.
上村松生,中川原千早,河村幸男,吉田静夫,竹原幸生,江藤剛治(2003)
低温顕微鏡観察による植物細胞の凍結傷害機構の解析
高速度撮影とフォトニクスに関する総合シンポジウム2003,盛岡.
(c) 講演等
上村松生,田中大介,日影孝志,新野孝男(2003)
リンドウ遺伝子資源の安定かつ長期保存 〜超低温保存法の確立〜
第6回りんどう研究会.
伊藤菊一(2003)
発熱する植物、ザゼンソウ
第5回白馬ざぜん草祭り.
(d) 特許
伊藤菊一(2003)
発熱植物ザゼンソウ由来のシアン耐性呼吸酵素遺伝子(特願2003-038874)
伊藤菊一(2003)
恒温性発現方法(特願2003-193176)
(e) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Niino, T., D. Tanaka, S. Ichikawa, J. Takano, S. Ivette, K. Shirata and M. Uemura (2003)
Cryopreservation of in vitro-grown apical shoot tips of strawberry by vitrification.
Plant Biotechnology 20: 75-80. [Summary]
工藤一晃,上村松生,河合成直(2003)
鉄欠乏オオムギ根より単離した細胞膜小胞における鉄の取り込み.
日本土壌肥料学会2003年度大会,東京.
江尻慎一郎教授退官記念事業
特別シンポジウム「生命科学の新世紀」
日時:平成15年9月24日(水)
場所:岩手大学農学部5号館1階
「生命科学の急速な進展と今後の展開」
三浦 謹一郎(プロディオス研究所所長)
「破骨細胞研究から見た骨代謝」
高橋 直之(松本歯科大学総合歯科医学研究所教授)
「農林水産省における食品機能研究:茶およびタマネギ等のフラボノイドの機能を中心に」
津志田 藤二郎(食品総合研究所食品機能開発部長)
(CRCセミナー)
第26回 7月17日 食感性工学のパラダイムと冷凍米飯サプライシステムへの展開
第27回 10月24日 ザゼンソウ研究プロジェクト この2年間の進展と今後の展望
伊藤 菊一(センター 生体機能開発研究分野)