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III.平成15年の研究活動と研究成果

1.細胞複製研究分野(堤 賢一、斎藤 靖史)

 本研究分野は細胞分裂の課程で細胞の機能がどのような仕組みで維持されたり変化したりする仕組みを解明し、細胞や生物個体に外来遺伝子を導入して新規機能を持たせ る際に導入遺伝子を安定に維持し機能発現させることを目指している。
 本研究分野の現在の研究課題は主として次の3つである。

 (1)染色体遺伝子の複製と転写を統御するメカニズム
 (2)リンドウ越冬芽の形成、寒冷耐性、休眠の機構
 (3)リンドウの生理活性物質の検索、作用機構

(1)本研究では、細胞分裂の際、遺伝子の複製(コピー)が染色体上のどこから始まるかが周辺遺伝子の発現のオン−オフにどのように関わるかについて調べている。
 我々はこれまで複製開始および転写プロモーターの2つの機能を持つoriA1領域をアルドラーゼB(AldB)遺伝子上流に見いだし、その機能を解析してきた。
 oriA1に結合するAlF-C蛋白質が複製開始領域認識複合体ORC (Origin Recognition Complex) のサブユニット(Orc1)と結合することを明らかにした(斎藤ら、Nucleic Acids Res., 2002)。これは、哺乳動物の複製開始位置の決定が、AlF-CなどのDNA結合因子を介したORCのリクルートによっておこることを示唆した初めての例である。これによっ て、これまで混沌としていた高等生物の複製開始領域には共通配列がないのかという疑問を解決できる。
 本年度はoriA1サイトC配列に結合するAlF-Cが他の複製開始領域にも結合している可能性を考え、ラットゲノム中に存在するAlF-C結合サイトを検索し、その領域の同定に 成功した。また、染色体部位特異的組み換えを利用してoriA1をマウス染色体に挿入した場合にもこの配列が複製開始領域として機能することを証明した。これらの研究結果 から、AlF-Cを介してサイトC配列が複製開始領域の決定に関わることが明らかになってきた。

 これらの研究成果は、平成14年度着手大学評価・学位授与機構による評価によって研究内容及び水準において"特にすぐれた研究(卓越した研究)"、研究の社会的効果に おいて"優れた成果"と評価された。

(2)リンドウ切り花の生産は岩手県が全国一である。主な切り花品種であるエゾリンドウ(Gentiana triflora)はF1品種として生産されているが、親株は自殖弱 勢が強く、自殖を重ねると形質が弱まったり変化したりする。このため、親株の効率的な維持、増殖法の確立のために、越冬芽形成能力の向上が緊急の育種目標となっている。 我々の研究分野は、岩手県安代町花き開発センターと共同でこの問題に取り組んでいる。
 現在までに、越冬芽で特異的に発現するタンパク質および他に比べ越冬芽で濃度の高いタンパク質を13種類同定した。それらの部分アミノ酸配列を決定した結果、興味あ ることに、それらの中には国内外の他の研究グループが通常低温などのストレスで誘導されるタンパク質として同定したものが7種類存在した。この結果は、通常のストレス 誘導とは異なったストレス誘導性タンパク質の発現制御系がリンドウ越冬芽に存在する可能性を強く示唆した。この機構が寒冷耐性や休眠とも連携している可能性がある。 また、寒さに弱い越冬芽をもつリンドウ変異体の取得に成功し、これを用いて上記のタンパク質の機能に関する研究に応用し、越冬芽の機能解明を進めている。

(3)リンドウの根は地中深く生長し、側根も多数あり、さらに腐敗しにくく処理が困難である。このため、切り花生産者(農家)にとっては"産業廃棄物"となっている。 一方、根は健胃などの薬効をもつといわれ、古くから漢方薬素材として用いられている。しかし、このような素材としては中国から安価なものが輸入されており、県内(国 内)農家が商品にしようとしても太刀打ちできない。このような背景で我々は表記の研究を開始し、根の有効利用を図ろうとしている。
 リンドウ成分の薬理作用については特定酵素活性の阻害など既に幾つかの研究論文が国内外から報告されているが、当研究分野の主たるテーマである細胞増殖・複製に関 する研究は見あたらない。そこで、根から水溶性抽出物を調製して種々の培養ガン細胞に加えて見たところ、細胞死誘導あるいは増殖停止効果が認められた。そこで、ヒト 腎ガン細胞をマウス皮下に移植しリンドウ抽出物を毎日1回経口投与(マウス体重10gあたり3.3mg乾重量の抽出物)したところ、増殖を遅延させる効果が見られた。現在、 リンドウ根抽出物からの活性物質の精製を行っている。
 マウスに抽出物を与えても体重増でみたかぎり強い毒性もなさそうである。安代町では、リンドウ根の乾燥粉末をもちいて日本酒やアイスクリームを試作しているが、こ のような食品に予防医学的な付加価値を付与できればと考えている。

(a) 発表論文および著書
Wang, Y., Y. Saitoh, T. Sato, S. Hidaka, and K. Tsutsumi(2003)
Comparison of plastid DNA replication in different cells and tissues of the rice plant.
Plant Mol. Biol. 52(4): 905-913.  [Summary]

(b) 学会発表
Tsutsumi, K.(2003)
Transcription factors implicated in switching from transcription to replication.
XIIth Inteernational congress on genes, gene families and isozymes, Berlin, Germany.

南 宏幸,牛尾建一,斎藤靖史,堤 賢一(2003)
ラット複製開始領域結合タンパク質AlF-Cの機能および染色体DNA結合サイトの解析
日本生化学会東北支部第69例会,仙台.

高橋美穂,日影孝志,山下哲郎,斎藤靖史,遠藤元庸,堤 賢一(2003)
リンドウの越冬芽で特異的に発現するタンパク質の解析
日本育種学会第103回講演会,千葉.

斎藤靖史,堤 賢一(2003)
ラットOrc1の細胞内局在性の解析
第26回日本分子生物学会年会,神戸.

高橋淳子,森 大輔,斎藤靖史,堤 賢一(2003)
染色体部位特異的遺伝子挿入によるラットAldB複製開始領域の解析
第26回日本分子生物学会年会,神戸.

(c) 講演等
堤 賢一(2003)
越冬芽の機能に関わるタンパク質の検索
第6回りんどう研究会

(d) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
安永千秋,辻本恒徳,斎藤靖史堤 賢一,猪熊道仁,羽田真悟,弘田利恵,大澤健司,三宅陽一(2003)
PCR法を用いた鳥類の雌雄判別の有用性
第9回日本野生動物医学会大会,沖縄.

小松 晃,斎藤靖史,大武美樹,山田哲也,若狭 暁(2003) 3'UTR領域をターゲットにしたRNAiによる2つのアントラニル酸合成酵素αサブユニット遺伝子の特異的発現抑制 第26回日本分子生物学会年会,神戸.

岩本 渉,吉田啓記,松原和衛,高橋寿太郎,御領政信,斎藤靖史,吉田 登,小松繁樹,川畑享子,萱野裕是(2003) 岩手地鶏の始原生殖細胞(PGC)を用いた生殖系キメラ作出の試み 東北畜産学会第53号大会.東北畜産学会誌,p.46


2.寒冷シグナル応答研究分野(江尻 愼一郎、木藤 新一郎)

 本研究分野では、寒冷刺激が細胞や個体に生じさせる分子シグナルの伝達経路、その応答や記憶の機構、また、寒冷地に棲息する生物に特有の寒冷耐性機構を解明するこ とを目的とし、本年度は以下の研究課題を中心に研究を展開した。

(1)翻訳制御系に対する寒冷ストレスの影響
(2)植物細胞紡錘体に対する低温の影響
(3)オオムギの春化誘導機構

(1)翻訳制御系に対する寒冷ストレスの影響
 タンパク質生合成とその制御機構を解明することは、バイオサイエンスおよびバイオテクノロジーにおける最も重要な基盤である。農業生産においても、タンパク質が、 何時、何処で、どのくらい作られるかを知り、その過程を制御するシステムを解明し、生物生産の量的・質的改善に応用することが中心的課題となる。特に、"やませ"の常 襲地帯である岩手県においては、翻訳制御系に対する寒冷ストレス影響を解析する必要がある。
 我々は、真核生物のペプチド鎖伸長因子1(EF-1)が4種類の異なるサブユニット(α、β、β'、γ)より構成され、αサブユニットはアミノアシル-tRNAをリボソーム に結合させる因子であり、EF-1ββ'γは結合反応により リボソームより遊離した不活性型のEF-1α・GDPをGTP存在下に活性型のEF-1α・GTPに変換する因子であることを 明らかにするとともに、長い間機能が不明であった EF-1γがglutathione S-transferase(GST)活性を保有することを明らかにしてきた。GSTは寒冷ストレスを始め、多様な ストレスの防御等に関連する多機能酵素の一つであり、EF-1γの機能の解明が待たれる。イネ培養細胞系での本年度の解析結果では、過酸化水素による酸化ストレス、低温 ストレス等でGSTの合成が誘導されることが観察されたが、EF-1γの合成は誘導されなかった。これらのことから、GSTとEF-1γが保有するGSTは異なる機能を有すると推定した。

(2)植物細胞紡錘体に対する低温の影響
 細胞の核分裂過程は、生命活動の中で最もドラマチックな過程であり、その機構は古くより研究が続けられている。従来、染色体の分離に関与する紡錘体の主成分はチュ ーブリンの重合体である微小管であり、アクチンフィラメントは関与しないとされていた。然るに我々は、タバコBY-2細胞を用い、ローダミンファロイジン染色により、紡 錘体中に微小管と配向性を一にするアクチンフィラメントを発見した。本年度は、この結果をさらに確固たるものにするため、分裂期の細胞に対する低温の影響について解 析した。すなわち、微小管およびアクチンフィラメントは、低温処理によりモノマーに崩壊することが知られていたので、一方のフィラメントを安定化する試薬の存在下に、 両フィラメントの安定性を解析した。その結果、大変興味深いことに、アクチンフィラメントを安定化する試薬で微小管が安定化され、逆に、微小管を安定化する試薬が存 在すると、低温下でアクチンフィラメントが観察された。
 以上の結果は、アクチンフィラメントおよび微小管との間に両繊維を安定化する相互作用が存在することを示すものであり、紡錘体中にアクチンフィラメントが存在する ことを支持する重要な結果であると考えられる。

(3)オオムギの春化誘導機構
 "春化"は植物が冬場の低温に曝され、日長が延びてはじめて花芽が形成される現象で、作物の約半数で春化がみられる。二酸化炭素の増加等による気温の上昇は秋蒔きの 麦類等に大打撃を与えるとも言われており、春化機構を解明し、春化を自在に制御することは、グローバルな課題である。本研究では、春化への関与が期待される複数の新 しい遺伝子を単離し、現在、春化との因果関係を明らかにするための解析を行っている。春化機構の解明は、栽培作物の生産地域拡大に繋がるのみでなく、ダイコン等のと う立ちの予防、岩手特産ナバナの生産性の向上、等にも繋がり、寒冷地農業に多くの利益をもたらすと期待される。また、本研究分野では寒冷耐性の高いオオムギ品種を用 いて、耐寒冷性遺伝子の同定を試みている。現在、低温環境下で特異的に転写される複数の遺伝子を同定しており、これらの中から寒冷耐性の引き金となる遺伝子を見出し、 寒冷耐性を有するイネ品種等を開発する基盤を構築する。また、本研究の過程で、オオムギ胚盤等で特異的に発現し、糖の流転に関与すると推定される遺伝子を見いだし、 その細胞内局在性、発現時期、発現誘導等に関する情報を得た。

(a) 学会発表
赤坂伸子,加藤清明,木藤新一郎,三浦秀穂,沢田壮兵(2003)
オオムギカゼインキナーゼ2α、βサブユニット遺伝子のマッピング
日本育種学会第104回講演会,神戸. 育種学研究,5(2):133

神崎比呂,加藤清明,木藤新一郎,沢田壮兵,三浦秀穂(2003)
オオムギP23k遺伝子のマッピング
日本育種学会第104回講演会,神戸. 育種学研究,5(2):134

木藤新一郎,及川愛,江尻愼一郎(2003)
オオムギ特異的23kDaタンパク質(P23k)の発現解析
日本育種学会第104回講演会,神戸. 育種学研究,5(2):308

(b) 講演等
木藤新一郎(2003)
発芽時のオオムギ胚盤で発現する23kDaタンパク質の機能
第13回八王子セミナー(八王子セミナーハウス)

(c) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Kamiie, K., T. Yamashita, H. Taira, S. Kidou and S. Ejiri (2003).
Interaction between elongation factors 1β and 1γ from Bombyx mori Silk Gland.
Biosci Biotechnol Biochem. 67: 1522-1529  [Summary]


3.生体機能開発研究分野(上村 松生、伊藤 菊一)

研究テーマ
 ◎ 植物細胞の低温下での傷害発生とそれを回避する分子機構
 ◎ 植物の超低温下での長期保存の可能性
 ◎ 植物の発熱メカニズムの解析とその利用に関する研究

 本研究分野は、植物の低温適応のメカニズムを総合的に解明し、その成果を利用すること目的としている。現在、外来遺伝子を導入して低温などの環境ストレスに耐性を 持つ植物を作成することが試みられているが、その試みが実用化されるためには、導入対象となる遺伝子がどのようなメカニズムでストレス耐性を増大させるのかという機 能評価を行う必要がある。その基礎データを得るため、本研究分野では、植物の低温適応分子機構の解明、また、植物が低温下で生育できる機構を応用した植物遺伝資源の 長期保存システム確立を目指して研究を行っている。以下に、平成15年に得られた主な成果を記す。

1. 植物の低温馴化過程の解析  2000年末に全ての塩基配列が公開され、モデル植物として広く用いられているシロイヌナズナは、非常に短い時間(<6時間)で低温馴化が可能な植物で、低温馴化や凍 結傷害機構と分子生物学知見を結びつける最適材料の一つである。本研究室では、低温馴化初期過程で特異的に出現する細胞膜タンパク質を網羅的に同定した。その中から、 lipocalin-likeタンパク質とデハイドリンの一種ERD14タンパク質をコードする遺伝子を導入し、過剰発現させたシロイヌナズナ形質転換体を作成して、これらのタンパク 質の耐凍性に対する機能評価を行った。その結果、両者共に過剰発現体で耐凍性増大が認められ、凍結発生機構の解析から両者が異なった機構で耐凍性増大に貢献している ことが示唆された。現在、さらに詳細な実験を行い、確認を行っている。
 さらに、凍結耐性の異なるコムギ品種を用いた低温馴化過程で細胞内に蓄積される適合溶質の細胞内局在性を調べる実験を進めた。細胞内局在性を決めるために、疎水性溶 媒密度勾配分画法を改良して小麦の低温馴化ステージに適した実験系を完成させた。その後、第1ステージ、および、第2ステージの低温馴化段階のコムギ葉を用いて実験を 行ったところ、耐凍性の大きな品種では耐凍性の小さな品種に比べて適合溶質の蓄積量が細胞内各部分で大きい事がわかった。また、低温馴化過程での変動パターンが耐凍 性の大小によって異なっており、生長と耐性獲得に分配する適合溶質(特に糖成分)の割合が異なる事が示唆された。
 本年度から、シロイヌナズナ培養細胞を用いた低温馴化分子機構の解析を開始した(理化学研究所との共同研究)。体制が複雑で多様なシグナルか混在していると考えら れる個体レベルでの耐凍性解析と比較して、培養細胞は比較的均一な系であると考えられるため、耐凍性増大機構を単純化して考察できる可能性がある。今まで得られた結 果は、耐凍性増大は低温馴化2日目で一過的に起こること、低温誘導性遺伝子発現も低温馴化初期に一過的に起こっていることが明らかになった。以上の現象は、シロイヌ ナズナ個体で得られた結果とは異なっている。今後、マイクロアレイ実験などを通じて詳細な耐凍性獲得機構の解析と植物個体との比較を行っていく予定である。

2. 植物有用遺伝子資源の超低温下における長期保存
 地球規模で進む環境変動や過度の開発によって、日々刻々失われている貴重な植物遺伝子資源を安定した状態で長期間保存できれば、将来の世代がその資源を必要とした 際に有効に利用することができる。保存方法として最も信頼性があるのは、超低温(−196℃)における水のガラス化を利用した保存法である。本研究室は、独・農業生物 資源研究所ジーンバンク(新野 孝男・上席研究官)、および、安代町花き開発センター(本センター客員教授・日影 孝志氏)と共同で、多様なリンドウ遺伝資源(茎頂) の網羅的超低温保存を試みている。本年度は、ガラス化過程で起こっている細胞超微細構造の観察を無水系溶媒中での凍結置換法を用いて試料を調整して電子顕微鏡観察を 行った。その結果、液体窒素温度中での植物茎頂細胞の微細構造を詳細に観察することに成功した。ガラス化がうまくいった場合とガラス化しなかった場合は、細胞内の氷 晶形成や細胞内小器官構造が大きく異なっていることも明らかに示すことができた。本知見から、ガラス化と超低温下での生存の間に密接な関係があることがわかった。

3. ザゼンソウの発熱制御システムの解析
 早春に花を咲かせるザゼンソウは氷点下を含む外気温の変動にもかかわらず、その発熱部位である肉穂花序の温度をほぼ20℃内外に維持する能力を有している。本研究に おいては、肉穂花序における熱産生の素反応の関わる因子の解析等を通じて、植物界では例外的な存在である発熱植物の温度制御システムに関わるメカニズムを明らかにす ることを目的としている。これまで、ザゼンソウの肉穂花序における体温変動にはおよそ1時間を周期とする振動現象が存在することが示唆されていたが、この体温振動現 象をより詳細に解析した結果、周期的体温変化は当該肉穂花序のサイズとは無関係であることが判明するとともに、このような体温変動は、典型的なカオス的特性を示すこ とが明らかとなった。特に、複数の群落地で測定した体温データがカオスの属性である独特のストレンジアトラクター(Zazen attractorと名付けた)を描くことが明らか となり、ザゼンソウの肉穂花序における温度制御アルゴリズムは、その生育環境や肉穂花序の大きさ等に関わらない、ユニークな制御ダイナミクスにより説明しうることを 突き止めた。さらに、本植物の温度センサー機能を司る肉穂花序における温度認識機構を明らかにするため、当該発熱細胞を含むプロトプラストを調製し、その呼吸活性を 局所線形近似法により解析したところ、そのストレンジアトラクターは肉穂花序の体温変動と近似した軌道を描くことが判明し、本植物の発熱制御メカニズムは、肉穂花序 の発熱担当細胞レベルで説明しうることが示唆された。

(a) 発表論文および著書
Uemura, M., G. Warren and P. L. Steponkus (2003)
Freezing sensitivity in the sfr4 mutant of Arabidopsis thaliana is due to sucrose deficiency, and is manifested by loss of osmotic responsiveness.
Plant Physiology 131: 1800-1807.  [Summary]

Uemura, M. and P. L. Steponkus (2003)
Modification of the intracellular sugar content alters the incidence of freeze-induced membrane lesions of protoplasts isolated from Arabidopsis thaliana leaves.
Plant, Cell and Environment 26: 1083-1096.  [Summary]

Kawamura, Y. and M. Uemura (2003)
Mass spectrometric approach for identifying putative plasma membrane proteins of Arabidopsis leaves associated with cold acclimation.
Plant Journal 36: 141-154  [Summary]

Ito, K., Y. Onda, T. Sato, Y. Abe and M. Uemura (2003)
Structural requirements for the perception of ambient tempereture signals in homeothermic heat production of skunk cabbage (Symplocarpus foetidus).
Plant, Cell and Environment 26: 783-789.   [Summary]

Ito, K., Y. Abe, S. Johnston and R. Seymour (2003)
Ubiquitous expression of a gene encoding for uncoupling protein isolated from the thermogenic inflorescence of the dead horse arum Helicodiceros muscivorus.
Journal of Experimental Botany 54: 1113-1114.  [Summary]

Seymour, M., M. Gibernau and K. Ito (2003)
Thermogenesis and respiration of inflorescences of the dead horse lily Helicodiceros muscivorus, a pseudo-thermoregulatory aroid associated with fly pollination.
Functional Ecology 17: 886-894.  [Summary]

伊藤菊一(2003)
ザゼンソウの発熱制御システム.
日本光合成研究会会報 36: 11-13.

上村松生、小野寺秀宣、猿山晴夫(2003)
イネ幼葉の冷温障害における活性酸素の関与.
低温生物工学会誌 49: 215-220.

(b) 学会発表
Tanaka, N., H. Handa, S. Murayama, M. Uemura, Y. Kawamura, T. Mitsui and S. Mikami (2003)
Proteomics of organelles from rice cell: step towards a functional analysis of the rice genome.
PAG Xl Meeting, San Diego, California, USA.

Ito, K. (2003)
Characterization of a temperature sensor that regulates heat production in the spadix of skunk cabbage.
Gordon Research Conference, Ventura, California, USA.

Kato, Y., Y. Onda, and K. Ito (2003)
Heat-production and expression analysis of genes encoding for mitochondrial alternative oxidase and uncoupling proteins in two Symplocarpus species, S. foetidus and S. nipponicus.
Gordon Research Conference, Ventura, California, USA.

Ito, T. and K. Ito (2003)
Analysis and modeling for thermal oscillation in spadix of skunk cabbage, Symplocarpus foetidus.
Gordon Research Conference, Ventura, California, USA.

Tominaga, Y., C. Nakagawara, Y. Kawamura and M. Uemura (2003)
Functional analysis of the genes encoding cold-acclimation-responsive plasma membrane proteins in Arabidopsis thaliana.
Plant Biology 2003, Honolulu, Hawaii, USA. Abstract, p.205

Ito, K. and Y. Onda(2003)
Thermoscopic identification of heat-generating cells that co-express both SfAOX and SfUCPb genes in the spadix of skunk cabbage, Symplocarpus foetidus.
Plant Biology 2003, Honolulu, Hawaii USA. Abstract, p.81

Ito, T. and K. Ito (2003)
Computer-simulation of mitochondrial respiratory activity that controls the homeothermic heat-production in the spadix of skunk cabbage, Symplocarpus foetidus.
Plant Biology 2003, Honolulu, Hawaii USA. Abstract, p.81

Ito, T. and K. Ito(2003)
Computer modeling for thermogenic temperature oscillations in higher plants.
5th International Workshop on Advanced Genomics from Molecules to Systems, Yokohama, Japan. Abstract, p.100

Uemura, M., Y. Tominaga, C. Nakagawara and Y. Kawamura (2003)
Role of plasma membrane proteins in cold acclimation of Arabidopsis thaliana.
1st Hitsujigaoka Workshop, Sapporo.(招待講演)Abstract, p.16

Tominaga, Y., C. Nakagawara and M. Uemura (2003)
Characterization of the genes encoding plasma membrane proteins responsive to cold acclimation in Arabidopsis thaliana.
1st Hitsujigaoka Workshop, Sapporo. Abstract, p.38

Kamata, T. and M. Uemura (2003)
Changes in subcellular localization of the compatible solutes during the first- and second-phase of cold hardening in wheat.
1st Hitsujigaoka Workshop, Sapporo. Abstract, p.39

伊藤菊一(2003)
ザゼンソウの発熱制御システム
2003年度植物生理学会第43回シンポジウム,奈良.(招待講演)

伊藤孝徳,伊藤菊一(2003)
ザゼンソウの肉穂花序における体温振動の解析とモデル化
日本植物生理学会2003年度大会,奈良.

加藤善明,恩田義彦,伊藤菊一(2003)
ザゼンソウ属の発熱現象および発熱関連遺伝子郡の発現解析
日本植物生理学会2003年度大会,奈良.

鎌田 崇,上村松生(2003)
コムギ低温順化過程における適合溶質細胞局在性の決定
日本植物生理学会2003年度年会,大阪.Plant Physiol 44: S-100

伊藤菊一,阿部幸江(2003)
新規発熱植物Dead Horseの発見とその発熱関連遺伝子の解析
日本農芸化学会2003年度大会,藤沢.

上村松生,富永陽子,鎌田崇,中河原千早,河村幸男,小島研一(2003)
細胞の凍結適応
第49回低温生物工学会年会・セミナー(シンポジウム講演),札幌.要旨集,p.11

上村松生,小野寺秀宣,猿山晴夫(2003)
イネ幼葉の低温耐性における活性酸素の関与
第49回低温生物工学会年会・セミナー,札幌.要旨集,p.41

上村松生(2003)
低温顕微鏡と高分解ビデオを用いたプロトプラストの凍結機構の解析
日本顕微鏡学会第59回学術講演会(シンポジウム講演),札幌.要旨集,p.108

小島研一,河村幸男,上村松生(2003)
シロイヌナズナは低温処理6時間以内に凍結耐性を増加させる
日本植物学会第67回大会,札幌.要旨集,p.139

上村松生,富永陽子,中川原千早,河村幸男(2003)
低温馴化において変動する細胞膜タンパク質の役割
日本植物学会第67回大会(シンポジウム講演),札幌.要旨集,p.78

田中大介,上村松生(2003)
植物茎頂のガラス化法超低温保存時における凍結置換法を用いた微細構造の観察
日本植物学会第67回大会,札幌. 要旨集,p.210

伊藤菊一,佐藤武博,恩田義彦(2003)
発熱植物ザゼンソウ由来の alternative oxidase 遺伝子の発現と機能解析
日本生化学会東北支部第69回例会,仙台.

伊藤菊一(2003)
ザゼンソウの発熱応答システム
日本農芸化学会東北支部第137回シンポジウム(招待講演),鶴岡.要旨集,p.25

Ito, K., Y. Onda and Y. Kato(2003)
Plant heat-generating cells co-express novel uncoupling protein and alternative oxidase.
第76回日本生化学会大会,横浜.

伊藤孝徳,伊藤菊一(2003)
ザゼンソウを模倣した植物型温度制御アルゴリズムの抽出および再構成
第1回システムバイオロジー研究会,東京.

上村松生,中川原千早,河村幸男,吉田静夫,竹原幸生,江藤剛治(2003)
低温顕微鏡観察による植物細胞の凍結傷害機構の解析
高速度撮影とフォトニクスに関する総合シンポジウム2003,盛岡.

松川和重,伊藤孝徳,加藤善明,伊藤菊一(2003)
局所線形近似法によるザゼンソウ発熱担当細胞の発熱応答システムの解析
第26回日本分子生物学会年会,神戸.

(c) 講演等
上村松生,田中大介,日影孝志,新野孝男(2003)
リンドウ遺伝子資源の安定かつ長期保存 〜超低温保存法の確立〜
第6回りんどう研究会.

伊藤菊一(2003)
ザゼンソウの世界 パート2
北上市藤根公民館(北上)

伊藤菊一(2003)
発熱する植物、ザゼンソウ
第5回白馬ざぜん草祭り.

伊藤菊一(2003)
恒温植物ザゼンソウを模倣した温度制御アルゴリズムの開発
イーハートーブ産学官連携推進の成果と課題発表会,盛岡.

(d) 特許
伊藤菊一(2003)
発熱植物ザゼンソウ由来のシアン耐性呼吸酵素遺伝子(特願2003-038874)

伊藤菊一(2003)
新規発熱植物Dead Horse由来の発熱関連遺伝子とその翻訳産物(特願2003-95799)

伊藤菊一(2003)
恒温性発現方法(特願2003-193176)

伊藤菊一,伊藤孝徳(2003)
自動制御方法および自動制御装置(特願2003-293050)

(e) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Niino, T., D. Tanaka, S. Ichikawa, J. Takano, S. Ivette, K. Shirata and M. Uemura (2003)
Cryopreservation of in vitro-grown apical shoot tips of strawberry by vitrification.
Plant Biotechnology 20: 75-80.  [Summary]

大和田琢二,桑名陽子,増田宏志,土田勝一,町 智之,梶 孝幸,上村松生鎌田 崇,村田紀夫(2003)
根粒菌の根粒着生・窒素固定におけるベタインの効果.
植物微生物研究会 第13回研究交流会,東京.

工藤一晃,上村松生,河合成直(2003)
鉄欠乏オオムギ根より単離した細胞膜小胞における鉄の取り込み.
日本土壌肥料学会2003年度大会,東京.


4.主催したシンポジウム

江尻慎一郎教授退官記念事業
 特別シンポジウム「生命科学の新世紀」
  日時:平成15年9月24日(水)
  場所:岩手大学農学部5号館1階

  −発表題名および発表者−

  「生命科学の急速な進展と今後の展開」
    三浦 謹一郎(プロディオス研究所所長)

  「ゲノム構造と転写反応」
    菅谷 公彦(放射線医学総合研究所放射線安全研究センター)

  「破骨細胞研究から見た骨代謝」
    高橋 直之(松本歯科大学総合歯科医学研究所教授)

  「脳とミクログリア/マクロファージ」
    中嶋 一行(創価大学工学部生命情報工学か助教授)

  「農林水産省における食品機能研究:茶およびタマネギ等のフラボノイドの機能を中心に」
    津志田 藤二郎(食品総合研究所食品機能開発部長)


5.主催したセミナー

(CRCセミナー) 

第26回 7月17日 食感性工学のパラダイムと冷凍米飯サプライシステムへの展開
           相良 泰行(東京大学大学院農学生命科学研究科)

第27回 10月24日 ザゼンソウ研究プロジェクト この2年間の進展と今後の展望
           伊藤 菊一(センター 生体機能開発研究分野)

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