寒冷バイオシステム研究センター | ||||||||||||||
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>年報 2004 (Vol.7)>V | [ 目次 | II | III | IV | V | VI | VII | VIII ] |
稲研究部遺伝子技術研究室(若狭 暁 室長)、細胞複製研究分野(斎藤 靖史)
研究テーマ:RNAiを用いた選択的mRNA分解による遺伝子機能解析本研究では、イネゲノムの成果で得られた有用遺伝子の機能解明を進めるため、ベクター開発や関連した基礎的データの蓄積を行って、RNAi技術を利用した効率的なイネ 遺伝子機能破壊法の開発と機能解析法としての適用を図る。
◇独立行政法人・農業生物資源研究所
遺伝資源研究グループ(石川 雅也 主任研究官)、生体機能開発研究分野(伊藤 菊一、上村 松生)
研究テーマ:遺伝子組換え技術を応用した次世代型植物の開発に関する研究「熱産生機能を付加した低温回避イネの開発」低温ストレス耐性作物の作出は、我が国の主要作物であるイネの冷害の克服をはじめ、地球レベルでの安定した食料供給においても重要かつ緊急の課題である。本研究で は、ザゼンソウより得られた脱共役タンパク質(UCP)をコードする遺伝子を導入したイネを作出し、その熱産生機能等の諸性質を解析することを目的とする。今年度は、 SfUCPaおよびSfUCPbに加え、SfAOXを導入したイネの作出を行った。現在これらの組換えイネの諸形質について解析を進めているところである。
◇独立行政法人・農業生物資源研究所
ジーンバンク(新野 孝男 上席研究官)、生体機能開発研究分野(田中 大介、上村 松生)
研究テーマ:植物茎頂組織の超低温下における長期保存系の確立本研究は、植物茎頂組織を遺伝的変異なしに長期間安定した状態で保存する効率的なシステムの確立を目的としている。現在までに、イチゴ茎頂を用いて高生存率で保存 可能なシステムを開発し、実際に100系統を越えるイチゴ茎頂の保存を行った。本研究結果は、Plant Biotechnologyに論文として発表した。
◇(財)岩手生物工学研究センター
水稲優良品種開発プロジェクト(寺内 良平 主席研究員、清水 武史 研究員)、生体機能開発研究分野(上村 松生)
研究テーマ:いもち病菌エリシターによってリン酸化されるイネの新規タンパク質の探索私たちは、いもち病菌感染に応答するイネの信号伝達経路に関心をもって研究している。イネ懸濁培養細胞を[32P]正リン酸で標識した後にイネいもち病菌エ リシター処理を行い、抽出したタンパク質を二次元電気泳動で分離してオートラジオグラフィーを行った。その結果、エリシターに応答してリン酸化されるタンパク質スポッ トが幾つか検出された。現在、このタンパク質の詳細な解析を進めている。
花き開発センター(日影 孝志 副所長)、細胞複製研究分野(斎藤 靖史、堤 賢一)
研究テーマ:リンドウの薬効に関する研究リンドウの根は古くから漢方薬として利用されているが、どのような生理活性があるかはよくわかっていない。そこで、産業上リンドウの切り花の収穫が終了した大量の 根が利用できることからその利用を視野に入れた研究を行っている。
◇有用遺伝子活用のための植物(イネ)・動物ゲノム研究:植物(イネ)・ゲノム研究 遺伝子の単離・機能解明研究
全体課題名:組換え体を用いた有用遺伝子の大規模機能解明と関連技術の開発
担当課題名:RNAiを用いた選択的mRNA分解による遺伝子機能解析
斎藤 靖史(細胞複製研究分野)
イネゲノムの塩基配列解析が2002年にも完了する勢いで進められている。塩基配列情報から遺伝子のアミノ酸配列を推定することができるが、それだけで遺伝子機能を解
明するには限界があり、機能不明遺伝子の有効利用は難しい。
本研究では、イネゲノムの成果で得られた有用遺伝子の機能解明を進めるため、ベクター開発や関連した基礎的データの蓄積を行って、RNAi技術を利用した効率的なイネ
遺伝子機能破壊法の開発と機能解析法としての適用を図る。
◇生物系特定産業技術研究支援センター:新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業
研究テーマ:植物の耐寒性形質に関わる分子機能の複合的解析とその応用
上村 松生(研究代表者、生体機能開発研究分野)、西田 生郎(東京大学大学院理学系研究科)、
和田 元(東京大学大学院総合文化研究科)、石川 雅也(独立法人農業生物資源研究所)、
藤川 清三(北海道大学農学研究科)
本プロジェクトは、平成11〜15年度にかけて行われ、平成16年度3月で終了した。非常に複雑な形質である植物の耐寒性について、分子生物学的アプローチと生理生化学 的アプローチを効率よく組み合わせ、耐寒性を増大、あるいは、付加した植物を作成するための分子基盤情報を取得することを目的とした。5グループがそれぞれの研究分野 を担当したが、上村グループは耐凍性増大のキネティックスを生理学的に解析し、低温馴化の過程で増大する複数の膜結合型可溶性タンパク質を同定するとともに、そのタ ンパク質をコードしている遺伝子の単離と、それを過剰発現する形質転換体を用いて機能評価を行った。生体膜は凍結融解過程における細胞の生死に深く関わっており、我々 が行った生理学的な解析により、細胞膜因子が与える細胞膜挙動・機能に対する影響の一面が明らかになった。今後、さらに研究を進め、耐寒性分子機構を明らかにしてい く所存である。
◇生物系特定産業技術研究支援センター:新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業
研究テーマ:ザゼンソウを模倣した温度制御アルゴリズムの解析とその生物系発熱制御デバイスへの応用本研究は、ザゼンソウの温度制御に関わるメカニズムの解明と発熱制御システムへの応用を目的として、平成13年10月から開始したプロジェクトである。これまで、フィ ールド調査に基づく遺伝子探索、計算機実験、および、分子生物学的実験といった異分野の研究手法を統合した研究が進展している。今年は、ザゼンソウ温度制御アルゴリ ズムについて、熱産生器官である肉穂花序の雌雄分化との関連性からより考察を行うと共に、工学部の長田 洋 助教授との共同研究により、抽出アルゴリズムのさらなる チューニングを行った。一方、熱産生メカニズムに密接に関与することが推定されているミトコンドリア因子については、酵母、植物、および、動物細胞における機能解析 を進めており、我々のターゲットとしている因子が、その発熱機能により細胞内エネルギーレベルを低下させる効果を有していることが判明しつつある。
◇地域貢献特別推進事業:国内最大廃棄物不法投棄サイトの環境再生システムの開発
研究テーマ:ザゼンソウ型バイオ発熱デバイスを利用した環境浄化機能に関する基礎的研究
担当:伊藤 菊一(生体機能開発研究分野)近年、土壌汚染等の社会問題において、環境浄化微生物が脚光を浴び始めている。これらの微生物は、人体あるいは環境に有害な物質を積極的に分解する機能に特化した 代謝経路を有しているが、その環境浄化機能は、当該微生物が有する代謝能力に依存しており、この代謝能力の増大が有害物質の除去効率に大きく関わっていることが予想 される。しかしながら、このような有用微生物の代謝機能の増大を普遍的に誘導する手法はこれまでに見出されていない。本研究においては、ザゼンソウの発熱に関連する 因子を微生物等に導入し、その代謝機能の増大を介した環境浄化機能の可能性を検討することを目的にしている。これまで、ザゼンソウ由来の発熱関連因子を導入した微生 物(SASX41B)において好気的呼吸活性が大きく増大することを明らかにしている。また、樹木の環境再生と関連して、アカマツのシアン耐性呼吸酵素遺伝子のクローン化と その発現解析を行った(農林環境科学科 森林科学講座 橋本 良二 教授との共同研究)。
◇21世紀COEプログラム
熱−生命システム相関学創成:生物の寒冷応答機構をモデルとして本拠点は平成16年度採択のプログラムであり、熱という物理要素が生命システムの進化・維持という生命現象に関与する機構について、生物学的アプローチだけでなく工 学的、生物情報学的アプローチを加え、既存の学問領域にはとらわれない切り口で解析し、得られた知見の領域統合型革新的応用を目指している。同時に、本研究分野にお ける若手研究者育成を重点項目の一つに掲げ、大学院教育やポスドクの積極的な雇用を行っている。事業担当者は、寒冷バイオシステム研究センターの3名の職員(以下参照) を初めとする連合農学研究科と工学研究科所属の9名からなっており、その中に岩手生物工学研究所所属の研究者1名(連合農学研究科客員教授)が含まれている。寒冷バイ オシステム研究センター所属の教員の担当分野は以下の通りである。
研究テーマ:植物生存戦略(傷害回避)の分子機構
担当:上村 松生(生体機能開発研究分野)本研究は、植物細胞における寒冷環境下で発生する傷害の初発部位は細胞膜であることから、植物の寒冷適応機構や寒冷条件下での耐性獲得機構を理解するために、寒冷 下における細胞膜の安定性獲得機構を調べることにしている。とくに、低温馴化過程で変動する細胞膜タンパク質に焦点を当て、その機構解析を詳細に行うことにしている。
研究テーマ:植物発熱メカニズム解析
担当:伊藤 菊一(生体機能開発研究分野)
本研究は植物の発熱現象に着目し、その熱産生機構の分子基盤を明らかにしようとするものである。
本年度は、ザゼンソウの発熱における根系の機能を解析するため、根溢泌液成分の変動について考察すると共に、ボルネオ島における発熱植物の検索、および、オースト
ラリアに自生するハスのミトコンドリアで発現する特異蛋白質の解析を行った。また、研究協力教員制度を活用し、植物の発熱現象が有する種々の特性について、様々な角
度からその利活用等に関わる検討に着手した。
研究テーマ:熱に対する生物の生存戦略メカニズム
担当:斎藤 靖史(細胞複製研究分野)越冬器官は、萌芽後ある程度成長したのち、成長を止め越冬に入る。リンドウ越冬芽で特異的に働くタンパク質、遺伝子を複数同定したところ、低温ストレスで発現が上 昇するものが多く存在していた。これらのタンパク質は、低温にさらされる以前にその発現が上昇していることから、越冬芽は来るべき低温環境に備え、細胞分裂を停止し、 低温、耐凍性を獲得していると考えられる。これらの機構を細胞分裂停止および耐冷、耐凍性と結びつけ、タンパク質間相互作用、情報伝達系を解明したい。さらに個々の 遺伝子ハンティングだけではなく、分化時にみられるような染色体・核・クロマチン構造の変化、転写、複製、遺伝子発現抑制系の変化に注目した研究をも目指す。