主な研究内容

ネコの嗅覚コミュニケーションを探る

ネコは他のネコの尿のにおいを嗅ぐと、頭を持ち上げ口を半開きにして恍惚とした表情を浮かべます。これは「フレーメン」と呼ばれる本能行動で、鋤鼻器という器官にフェロモンを取り込むために行われていると考えられています。私達は、ネコがフレーメンを行うまでの、嗅覚器(鼻)でのにおいの感知→神経伝達→脳での情報処理→フレーメンというシステムを構成している一連のメカニズムを解明する研究を行っています。具体的には、フレーメンの引き金となるフェロモンを尿から精製して化学構造を決定し、次にフェロモンの嗅覚器での受容機構の解析と情報伝達と処理が行われている脳神経回路の特定を行います。この研究は、高次な動物の本能行動のメカニズムの理解を深めるひとつのモデルとしての貢献が期待できます。また進化の過程でネコがフレーメンを本能行動の一つとして獲得した意義と役割も研究します。これらの成果は、野良ネコの糞尿被害防止策や絶滅の危機にあるネコ科野生動物(イリオモテヤマネコなど)の保全活動(人工繁殖・生息数調査等)に応用が期待されています。

ネコの「あのにおい」をおさえる!

ネコを飼っている人ならば、おしっこのにおいに悩まない人はいないでしょう。あのネコ独特の強烈なにおいを、屋内に吹き付けられたらたまったものではありません。  岩手大学では以前に、ネコの尿臭の原因となる物質の元になるフェリニンというアミノ酸の合成に関わる酵素「コーキシン」を発見し、におい物質の合成経路の一部を明らかにしました。  私達は、におい物質の合成経路とそのメカニズムを解明することで、「あのにおい」を抑える方法を研究しています。ネコをモデルとしてにおいの生成メカニズムを解明することで、ペット臭の消臭法の開発に貢献できると考えています。

ライオン糞で安全運行

 美しい渓谷の合間を走る鉄道は、その景観から観光客にも人気がありますが、その鉄道沿線で、ニホンジカやニホンカモシカなど、野生動物との衝突事故が問題になっていることはご存知でしょうか?  衝突事故は、野生動物の生息域と交差する鉄道で頻繁におこり、乗客の安全問題だけでなく、事故処理の時間的・経済的損害が問題となっています。そのため、沿線に野生動物を近寄らせない、行動制御法の開発が期待されています。 私達は、ライオンの排泄物からニホンジカが嫌がるにおい物質を探す研究を行っています。シカが忌避する物質が見つかれば、列車事故防止のほか、農作物の食害防止などへの利用が期待されています。このように、におい物質により野生動物の行動をコントロールして、人と動物が共生できる社会への貢献を目指しています。

スギの香り成分で心身を健康に!

 山から切り出された丸太は、材木に加工されて建材などに利用されます。この、丸太から材木へ加工する際に、端材や樹皮などの産業廃棄物がどうしてもでてしまいます。近年ではバイオマス発電の燃料などへの利用が進みつつありますが、付加価値の高い利用法とはなっていません。  そこで我々は、産業廃棄物である樹皮から機能性物質を抽出し、新たな付加価値を創出することを目的として研究しています。これまでの研究で、スギ樹皮から抽出された精油成分にリラックス作用や、抗菌作用があることが分かりました。人の精神活動や健康維持に有用な生理活性物質を、産業廃棄物である樹皮などから作製することで、林業に新しい付加価値を生み、新規雇用の創出や地域産業の活性化に貢献できると考えています。

みそ汁のおいしさは香りで決まる?!

 お味噌は、酵母による発酵プロセスを人間がコントロールすることによって、原料の食品には存在しない豊かな香りをもつようになります。この香りがお味噌のおいしさを左右する重要な因子の一つです。しかしながら、お味噌の香り成分は200種類以上の成分から構成され、香気濃縮物を調整する点で技術的困難が伴うことから進展していませんでした。  我々のグループでは、お味噌本来の香りを良く再現し、重要な香気成分を抽出できる方法を開発しました。そして味噌特有の香気成分としてHEMF(4-hydroxy-2(or 5)-ethyl-5(or 2)-methyl-3(2H)-furanone)を同定しました。また、赤色系辛口米味噌、淡色系辛口米味噌、麦味噌、豆味噌の香気成分を比較することで、各味噌の香りの違いがHEMF、メチオノール、4-エチルグアイアコールの組み合わせからなることを明らかにしました。  本研究の成果は、仙台味噌の醸造に応用され、よい香りを作り出す「まろい酵母」の選抜につながりました。現在は、HEMFに加えて、さらにおいしさを決める新しい香りの成分を見つけ、消費者がよりおいしいと感じる発酵食品の開発に応用したいと考えています。