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8/8の講義「人的資源・労務管理」の講義内容をレポートします。
◆概要
- ○「人事・労務管理から人的資源活用に向けて」横山 信英 氏
・まずは経営理念"想いの軸"があれば、それ以降はなんとかなる。"想いの軸"を持つことが大事。→従業員にも想いが共有できていないとうまくいかない(例:定時後も台風対策を行わなければならないが従業員は定時退社)。
・主任や班長といったある程度業務の責任を持っている中間管理職の人たちが近未来の経営を担っている。中間管理職は経営に関わるため、簿記は必須。例えば、機械のオーバーホールができるなどの専門的な技術を持つことも必要。
・規模拡大や事業拡大に雇用を考えるのはいいが、社会保障・労災についてもしっかり考えた上で判断すること。 - ○(株)銀河農園 橋本 正成 氏
・以前は薬局で薬を売っていたが、世の中には薬を飲んでいない人の方が圧倒的に多い。
→薬を飲んでいないマーケットにも対応できるようドラッグストアは「健康に生活するためのもの」を置いている。農業でもマーケットをどう捉えるかが大事。
・退職して農業を始める際にIAFSの前身のトップスクールを受講した。その時に言われたのが、「生産者ではなく経営者になれ」ということ。
・商品は製造原価ではなく、販売単価から販売原価を決めている。小売店ごとに手数料が異なるため、消費者に届くときに同じ値段で売られるように調整。
・経営者として経営理念を持ち、従業員と共有することが大事。経営理念を実現させるために、従業員と目標達成の手段を検討することも重要。
→経営理念を共有しているとパートからも指摘や気付きを教えてもらえる。
・法人化は従業員が喜ぶ。一般企業並みの福利厚生になる。ただし、税金は法人化した後の方が確実に多く取られる。個人でも集落でも法人化した後の目標がないと失敗する。
・従業員に徹底させていることは挨拶。会社のイメージは最初に会った人で決まる。
・昇給はあるが、評価で昇給はしない。責任とのバランスで賃金を決めるようにしている。
・中間管理職として入社3年目の人を鍛えている。今はこの人からほとんどの指示がでている。選定理由は自分の考えがあり、常に相談して業務を進めていること。
◆講義 | 「人的資源・労務管理」 |
講師: | 社会保険労務士・行政書士 横山 信英 氏 (株)銀河農園 代表取締役会長 橋本 正成 氏 岩手大学農学部教授 佐藤 和憲 氏 |
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8/3の講義「農場の衛生管理」講義内容をレポートします。この講義では、GAPについて、国際的な歴史背景から考え方、実際に認証を受ける際のポイントなどを学びました。
◆概要
- ・GAPは安全・安心のためや輸出するために認証を取るものではない。あくまで、考え方の始まりは消費者側からの要望に応える形から始まっている。
- ・元々認証制度は消費者に「安心」を提供するためにスーパーや卸売企業が主体的に行っていた。
- ・イギリスでは、国で農業生産のガイドラインを作っている(Green Code、Soil Code、Water Code)。これに準拠していれば、各種認証に対応できるようになっている。
- ・欧州では日本と比較して環境への影響を考慮した養分管理に対する規制がかなり厳しい。また、生産数量に対しての補助金を廃止し、環境保全の取り組みに対する補助金を交付。
- ・現在、世界でのGAPの考え方は農業の「持続可能性」「社会的責任」「倫理性」の3つ。日本では、GAPの本質や歴史的背景の理解が進んでいない。
- ・GLOBAL.G.A.Pは最低限の仕入れ基準であり、スーパーの要求はそれ以上(農場認証)。
- ・GAPにおいては、ビジネス・マネジメントシステムとクオリティ・コントロールが重要。(ここでいうコントロールはマネジメントの一部。経営管理の質をコントロールすること。)
- ・海外のGAP普及のキャッチコピーは「農業の悪い習慣を止めよう」
- ・GAPは不適切な農業管理(BAP)を経由することで明らかになる。BAPはほぼリスクとリスク管理。リスク評価の手順は①危害となる可能性を特定する、②危害の内容を特定する、③リスクは判定し対応策を考える。(危害要因の排除や発生確率を下げる)
◆講義「農場の衛生管理」 講師:一般社団法人日本生産者GAP協会理事長 田上 隆一 氏 |
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8/2の講義「地域活性化論」の講義内容をレポートします。
◆概要
講義「地域活性化論」
- ○戦略計画作成に向けて
- 地域活性化において一番重要なのは「どれだけ強い想いがあるか」。
- 地域リーダーに頼りきりではなく、サポートする人材の確保も重要。関係機関(市町村、JA、普及組織)のサポートも必要。
- 地域での話し合いにおいて、始めは小集団で話し合いをして、全体で集約するといった手法が有効。
- 地域づくりは評価しにくい。具体的な数字の目標を立てること。
- ○ 地域活性化論
- 農業ビジネスモデルとは?
- → "儲ける仕組み"最悪のケースでも継続できることが条件。
- → 利益、コスト、売上、事業というような企業が存続するための要素をまとめたもの。
- → ①コスト削減、②製品・ブランド価値創造、③他社との競争、④マーケティング、⑤人材の確保と育成等のビジネスプロセスを統合したもの。
- → 農業としての視点「地域での雇用創出」や「土地から離れられない」といった要素も重要。
- ビジネスデザインとは
→ 新しい価値を創造する仕組み。顧客の価値(「共創価値」や「経験価値」も含む)の変化に対応する仕組み。 - 新規事業を導入する場合の評価
→ 投資規模、コストと収益、実現可能性と持続期間、リスク評価、人材・技術の獲得可能性などが検討要因。
→ 身近なところで言えば、規模拡大して既存の機械を2台にするか、大規模に対応した機械に更新するかなども新規事業。 - ビジネスモデルは出発期→離陸期→発展期・安定期と変化も必要。
- 農業ビジネスモデルとは?
◆講師:東京農業大学名誉教授 門間 敏幸 氏 |
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今年度の現場スタディでは、6件の経営体等を視察しました。視察先のある秋田県内陸部は直前に豪雨災害がありましたが、幸いにも視察先には大きな被害もなく、無事視察を終えることができました。内容をレポートします。
◆1日目
①農事組合法人 きずな
経営品目: | 水稲34.8ha、そば17.8ha、大豆3.1ha、小麦1.5ha、枝豆4.0ha、ネギ1.0ha、スイカ0.6haなど(作業受託は水稲7.0ha、そば200ha(100ha×2回転)) |
組織体制: | 構成戸数34戸、理事4名、監事2名、常時雇用8名、臨時雇用約30名 |
- 始めは転作でそばを集団でやろうというところからのスタート。唐箕にかけて面取りをして出荷したところ450円/kgと高く売れたので増やしていこうということで法人設立に至った。
- 集落営農を契機にスタートしたが、地域ぐるみではなく、従業員は集落外から雇い、経営を行っている。
- 冬場も園芸品目の栽培や育苗などを行い、周年雇用を行っている。
- 従業員の労働時間は自由。ただし、何の機械を使用したかといった細かい内容を含めた作業日誌を毎日提出させている。
- 新しい市場開拓を積極的に行っている。技術も隠すことはないが、競合が増えてくれば辞める。従業員にも自由にやらせる。
- 販路は独自のルートで直接販売。系統出荷だと自社に対する評価が分からないが、取引先からの自社に対する評価が得られることで従業員の意識が変わるメリットがある。
- 従業員は一度農外企業での経験を積ませてから採用する。
②事組合法人 美郷サンファーム
経営品目: | 水稲20ha(酒米8ha)、アスパラガス20a、園芸品目(メロン、トマト等)30a、 もち加工、レストラン経営 |
組織体制: | 家族経営(パート数名) |
- 6次産業化のスタートはもち加工から。主に冬場の作業として何かできないかと考えたときにもちの加工に行き着いた。1.5haで約750万円の販売額。
- レストラン経営は6年目。やってみて"合わない"と感じている。収益よりも作業が合わないと感じている。地域貢献としての事業でなく収益部門としての事業として取組むのであればお勧めしない。
- 酒米は地元の酒蔵と契約栽培。「美郷錦」などを栽培。出荷先は高橋酒造など。
- 野菜は時間あたりの労働生産性が悪いことが多い。単収や販売額でなく、人や労働時間あたりの生産性を高めていかないと経営が成り立たないと感じている。
- 県や市町村も農家の収入が上がるように常に考えているので、情報交換は大事。
- 農業者同士が競争するのではなく、今の情勢の変化と競争する意識で取り組んでいる。
③ファームジャグロンンズ 兎農園
経営品目: | 枝豆 |
組織体制: | 従業員15名 |
- 元は国の農業研究センターの職員。
- 秋田県での作業は夏のみ。枝豆栽培が終了した後は三重県でほうれんそうなどを栽培する。
- 始めは秋田県でもほうれんそうに取り組みたいと考えていたが、秋田県では気候が合わず、日本一を目指せないと判断し、秋田県で日本一になれる品目を考えて枝豆に取り組むことにした。
- 大切にしていることは「売り先とセットで考えること」「ポールポジションを見つけること」。
④農事組合法人 中仙さくらファーム
経営品目: | 水稲45ha(育苗販売7,000万枚)、大豆45ha、りんどう7ha、ぶどう5ha、レストラン経営 |
組織体制: | 役員3名、社員7名、パート10名 |
- 集落営農組織で基盤整備をきっかけに法人化。
- 組織のメリットは失敗をカバーできることだと感じている。苗を枯らしてしまったり、焼いてしまったりはどうしても起こりうるもの。
- 集落営農はただただ法人化すると人件費が払えず、経営は赤字になるので、まずは作業受託を増やし、人件費を払えるようにした。
- それでも集落内の労力が余っていたため、りんどうやブドウを導入し、労力を活用している。(ハウスで栽培可能なものは西日本や南の地域に負けるので、地の利を生かした品目を選定。)
- 販路はJAが3〜4割。残りは業務用や東京のレストランなどとの契約販売。外食向けにウェイトを置いている。
◆2日目概要
⑤株式会社 ベジタブルスタイル
組織体制: | 役員2名(非常勤) |
- 会社の事業は卸売業。大潟村で生産された米は国が買い取っていた背景があるため、大潟村のJAは販売を行っていなかったため、農家は自分たちで営業を行わなければならなかったので、自分たちで出荷調整を行い、農家には生産に特化してもらおうと会社を立ち上げた。
- 農家は品目毎にチームを組み、会社へのマージンや目標もチーム毎に決めてもらう。
- 水稲育苗用ハウスは育苗後放置されていたので、活用したいと青ネギなどを始めた。(売り先は吉野家など大手。業務用に特化。)
- 外食と話をしていると、無理に加工しなくても需要があり、望まれる品目はあるので、今のところ加工は考えていない。
- 農業ビジネスマガジンvol.18に記事が掲載されている。
⑥農事組合法人 立花ファーム
経営品目: | 水稲28ha、大豆18ha、ネギ0.7ha |
組織体制: | 構成戸数42戸、役員8名 |
- 秋田県で初めて集落営農から法人化になった集落。
- 集落に若手がいない状況で担い手不足の現状+基盤整備が契機となり、法人化。集落の同意を得るために各戸を巡回。事前の説明があったこともあり、同意がスムーズに得られた。また、構成員の多くが、機械の更新時期が近くタイミングも良かった。
- 若手はいないが、無理に引き入れようとせず、退職後に戻って来てくれればいいと思っている。
- 組合員は従事分量配当で利益配分を受け、機械のローンや肥料・農薬も購入しなくていいとなり、喜んでいるとのこと。
- 水管理や2回目の除草、草刈は再委託して委託費を支払っている。
- GPSトラクターも導入した。作業効率は上がったとのこと。
- 組合員への作業指示や連絡は、ファームニュースというチラシを配布しておこなっている。
7/19の講義「農業経営戦略演習」の内容をレポートします。
戦略計画作成の第一歩、SWOT分析を行いました。
◆概要
- ○講義「農業経営戦略演習」
- 岩経営理念、経営ビジョン、経営目標を作成する前に「SWOT分析」を行い、経営戦略の方向性を考える。
- SWOT分析では外部環境(機会・脅威)、内部環境(強み・弱み)を分析し、外部・内部の両面から加えて分析を行い、戦略の方向性を考えていく。
- 特に「積極的攻勢(機会×強み)」を優先的に考えること。
- ○ 演習1「SWOT分析演習」
- 自身の経営戦略策定のためのSWOT分析を行う前に、架空のX社について、5,6人でグループを作成し、SWOT分析の演習を実施。
- ① 受講者個人ごとに外部環境(機会・脅威)、内部環境(強み・弱み)を分析
- ② グループ内で外部・内部環境を整理
- ③ SWOT分析のクロス分析を実施(外部・内部環境を踏まえて、戦略の方向性を考える)
- 自身の経営戦略策定のためのSWOT分析を行う前に、架空のX社について、5,6人でグループを作成し、SWOT分析の演習を実施。
- ○ 演習2「農業ビジネス経営戦略策定演習」
受講者個人の経営について、SWOT分析を行った。
マクロ環境: 社会環境、経済環境、政治環境、科学技術環境など
ミクロ環境: 農作物・食品の消費や需要、農業資材や機械等の動向、競合相手の動向
【内部環境分析の視点】
経営資源、生産技術、作業・労務、販売・マーケティング、財務・会計、組織体制など
◆講義「農業経営戦略演習」
講師:中央農業改良普及センター県域グループ | 上席農業普及員 千葉 守 氏 |
主査農業普及員 松浦 貞彦 氏 |
7/12の講義「農産加工品のマーケティング」の内容をレポートします。
製品戦略を立てる際には、科学的根拠を持ち、思い込みを排除することといった話が印象的でした。
◆概要
- 6次産業化においては、マーケティングの4P(製品、価格、流通、販売)が重要。
- 食に関する潮流は大きく3つ。間違った考え方が流行している。
- ① フードファディズム…一時的流行。食品が健康に対する影響を過大評価すること。
- ② ヘルシズム…健康至上主義、健康幻想。例として。
- ③ ホメオパシー…希釈した成分を投与することで自然治癒力を引き出す思想。
- マーケティングでは製品戦略が特に重要。大手企業は大量に安定した仕入れができないと参入できないので、大手が参入できない部分はチャンスと考えている。
- 調理と食品加工は根本的に異なる。調理は感性と技能で行うが、食品加工は原理と理論と技術を元に行う。
- 製品戦略に勘と経験と度胸は必要だが、科学的根拠を持つこと、思い込みを排除することが大事(例えば、「真空包装すれば腐敗しなくなる」→嫌気性菌は活発化してしまう)。
- 売れ続ける商品は滅多にないため、新商品開発は常に必要。
- 新商品開発においては、品名、形状、質量、原価、売価といった製品設計に加え、売上数量なども設定して考えること。
- 知的財産権についても説明。
- 商品名を決める際は、商標登録されていないか確認すること。
◆講義「農産加工品のマーケティング」
講師: | 岩手大学農学部教授 三浦 靖 氏 |
7/5の講義・公開講座「経営成長・経営継承」の内容をレポートします。
◆概要
- ○ 「経営成長・経営継承」 新田 義修 氏
- 岩手県が掲げている販売額3,000万円以上のリーディング経営体は、常時雇用を雇っても赤字にならない最低ライン(静岡県では5,000万円以上)。
- 経営理念は大きく社会性と利益の2つの要素になる。雇われる人が雇われたいと思うような経営理念を持つことが、組織で共通意識を持って経営していく上で大事。
- 販売力向上のための考え方の1つにマーケティングの4P(製品、価格、流通、プロモーション)がある。
- 経営成長の定義は①経営目的を実現する活動の拡大、②売上高の拡大(量的拡大と質的高度化)、③能力×意欲×方向でもたらされる(方向が特に重要)。
- 経営継承は、目に見える有形資源と目に見えない無形資源がある。無形資源の中核は経営者能力。暗黙知(言葉では説明できないようなもの)を含めてどの部分が共有化(継承)できているか情報交換をしながら確認することが大事。
- ○ 「紀州原農園の目指す美味しい条件を満たす手作りの味わい」 原 拓生 氏
- 基幹品目の梅の経営を軸に、柑橘類に係る新たな取組に挑戦している。
- 中山間地域では規模拡大=所得拡大とならないので、商品価値を高める方向で活動。
- 活動は大きく販売の多様化、体験型観光、イベント実施、他業態との連携、県内連携など。
- 特徴的な取組の1つにオーナー樹制度(消費者に1本の木のオーナーになってもらう)があり、地域で取り組んでいる生産者も多く、収益性が高いとのこと。
- 質疑の中で商工会議所などに入ることを強く勧められた。サポートしてくれる仲間がいることが新たなチャレンジをする上で重要。
◆講義「経営成長・経営継承」
講師: | 岩手県立大学総合政策学部准教授 新田 義修 氏 |
紀州原農園園主 原 拓生 氏 |
IAFS事務局です。
6/28の講義は「食産業ビジネス論」でした。
事例発表では、「らしさ」の徹底や「プロモーション」の構築といった中身を通じて、6次産業化ならではの付加価値を加えている事例だと感じました。
◆概要(総合討論の内容も含む)
- ○ ブランドストーリー 大平 恭子 氏
- 戦略計画作成時には3C分析(自社・顧客・競合)を意識して、目的と目標(出口)をしっかり設定してほしい。
- 戦略を作る時は、身の丈に合った経営、持続可能な経営を考えること。
- 商品の価値は、品質と価格のバランスで変わるが、6次産業化ではそこに「自分たちの強み(人柄や作柄、地域柄などの経営資源)」を追加して価値を高めていくことが大切。
- ○ 松本りんご園 松本 直子 氏
- りんごの生産に加え、「mi cafe」というカフェを経営。
- 農地にカフェを建てる許可を得るために4年間役場や大学など関係機関を回った。
- カフェを建てる時に気をつけたことは「らしさ」。農家だからできることを意識し、りんご畑やそこからの景観を活かすことや、現場の話をしながら食事提供し、そのメニューの背景(ストーリー)をお客さんに理解してもらっている。
- ○ 佐藤ぶどう園 佐藤 徹 氏
- 一房枝付きレーズンの販売についての話がメイン。
- 最初のパッケージはイベントに出品したが評価が低かったため、市場調査を「食」のみから「衣・食・住」に変えてプロモーションを再構築した結果、「世界にも通用する究極のお土産」品評会で金賞を受賞し、大手の取引先との販路の拡大に繋がった。
◆講義「食産業ビジネス論」
講師: | ブランドストーリー 大平 恭子 氏 |
松本りんご園 松本 直子 氏 | |
佐藤ぶどう園 佐藤 徹 氏 |
6月27日に開講した病害虫管理の講義概要を紹介します。
−植物の病気−
岩手大学農学部 植物生命科学科 植物病理学研究室
吉川信幸 教授
- ○ 植物病理学会は、獣医学会に次いで歴史が古く、102年経過している。
- ○ 医学は人間を救うが、植物病理学は人類を救う。
例えば、穀類(イネ、ムギ)の病害による損失は約2.6億トンで10億人分の食料に匹敵すること、アイルランドのジャガイモ飢饉で人口800万人のうち100万人が餓死して150万人が北米へ移民したこと、コーヒーサビ病でセイロンのコーヒーが生産できなくなったためイギリスで紅茶を飲むようになったこと、などが紹介されました。 - ○ また、農作物の病気の原因となる、ウィルスや細菌、菌類による病気の種類や感染の仕組みなどが説明されたほか、最近問題になっているマツ枯れの原因の線虫やウメ輪紋病などについても話していただきました。
- ○ 後半は、吉川先生が開発した「ウィルスベクターを活用した果樹・花弁類の開花促進技術」について説明していただきました。
- 「桃栗3年、柿8年・・・・」と言うが、りんごも開花・結実まで6〜10数年かかります。
例えば、「ふじ」は品種になるまでに20年以上かかっていますが、米国で黒星病抵抗性を持つりんごを作るのに7世代68年かかった例もあります。 - この実の成らない期間(幼若相)を短くできれば、品種育成が飛躍的に向上します。
- これを可能にしたのが吉川先生の研究です。りんご実生の開花促進効果の研究事例では、播種後2カ月で開花し、その後結実したものから種子を取って播種すると発芽し、そこからウィルスは検出されませんでした。
- これは、その他の品目でも応用ができ、色々な品目で研究に取り組んでいるとのことです。
花では、現在八幡平市との共同研究として、「花弁の開くエゾリンドウ」を開発中とのこと。
- 「桃栗3年、柿8年・・・・」と言うが、りんごも開花・結実まで6〜10数年かかります。
−病害虫管理(防除・農薬)と岩手県における環境に優しい病害虫管理技術−
岩手県農業研究センター環境部 病理昆虫研究室
大友令史 室長
- ○ 農業農村は、農業生産のみならず、洪水や土砂崩れを防いだり、地下水を作る生物のすみかになる、景観を保全する、文化を伝承する、などの多面的な機能がある。
- ○ 一方では、農業生産に伴う環境への負荷もあるので、特に農薬については、リスク削減のための方策を考える必要がある。
- ○ 農薬を使わないと3割しか収穫できない。→雑草で29%、害虫で23%、病害で18%の損失。
- ○ 生産場面における農薬の役割は、①安定的に食料を供給、②病害虫により生産される毒素やアレルゲンによる健康被害を低減、③農家を過重な労働から解放、などがある。
- ○ 近年、農薬を減らすための動きがあるが、その理由としては、①生産コストを下げる、②化学物質の環境への放出量を減らす、③病気や虫に抵抗性がつかないようにする、④消費者ニーズに応える、などがある。
- ○ 農薬を使うことに対する誤解もあるので、考えてみる必要がある。農薬の残留基準はかなり厳しいレベルで決められている。むしろ、天然物でも危険なものはたくさんある。通常に農産物を食べて農薬のせいで死んだ人はいない。むしろ微生物が危険!
- ○ 「安心」と「安全」は別物!安全は技術によって担保されているもので、安心は気持ちによるところが大きい。
- ○ 環境保全型農業
- 有機栽培−無化学合成農薬・資材、化学肥料で2年以上経過、堆肥等による土づくり。
- 特別栽培−化学合成農薬及び化学肥料(窒素)を慣行栽培に比べて5割以上削減。
- エコファーマー−都道府県が策定した「持続性の高い農業生産方式の導入方針」に基づき、「持続性の高い農業生産方式の導入計画」を作成して知事認証を受けた農業者。
【講師】
ホシノ・アグリ・コミュニケーション研究所 代表 星野 康人 氏〈午前・午後〉
有限会社秀吉 取締役営業企画部長 渡邊 里沙 氏〈午後〉
やまに農産株式会社 代表取締役 橋 医久子 氏〈午後〉
※午後は上記講師3名のほか、佐藤和憲 岩手大学農学部教授と共に総合討論も実施。
【概要】
皆さまの地域資源にはどういったものがあるでしょうか?
講師の先生からは「当たり前と思っていることも資源」「みなさんの周りにあるものは全
て資源」といった発言もありました。今一度、地域資源について考えてみてはいかがでしょうか。
- ◆「地域資源活用論」(星野氏)
地域資源は大きく分けると、①経営理念、②風土や文化、③品目や品種、④技術(栽培や加工)の4つ。ただし、資源だけでは価値がなく、ニーズと結びつけることで商品コンセプトとなり、価値が生まれる。
農商工連携を行う際には、農林水産物と工業製品の違い(安定した納品が困難など)を理解してもらい、圃場見学を行うなどして相互理解を深めていくことが成功のカギ。
- ◆「地域資源を活かし一次産業を繋ぐ活動」(渡邊氏)
「CHEF'S WANT」という飲食店向けの食材販売事業(生産者と飲食店を繋ぐ中卸のような事業)を行っている。飲食店では一般の消費者と求めている食材が異なる(新鮮、希少、生産者が見える食材など)。他業種との連携は「想いが一致する」ことが継続していく上で重要。
- ◆「地域資源活用の取組について」(髙橋氏)
地域の特色を活かした農産物生産・加工品販売・観光農園を通じて、地域活性化に役立つ農業を行っている。西和賀で昔から食べられていたわらびという資源を大切にし、育ててきた。新たな資源を育てることも大事だと思い、カシスにも取り組んでいる。
わらびは地域内で連携して取り組んでいるが、連携継続には利害関係が一致し、利益のみに走り過ぎないことが大事。
<午前>
「土壌の基礎」
【講師】 岩手大学農学部応用生物化学科 土壌学研究室 准教授 立石 貴浩 氏
「そもそも『土壌』とは?」講義では、土壌の成り立ちから、その機能まで実験を含めて
詳しく説明していただきました。
- 土壌の三つの機能
①物を育てる機能(すみかの提供、養分の供給)
②水を維持する機能(土壌中のすき間に水)
③有機物の分解や物質の循環 - 土壌の特性
①物理性−気相・液相・固相で構成
固粒を形成→保水性・通気性・透水性の改善。
②化学性−土壌粒子表面に正又は負の荷電→養分の保持
陽イオンを吸着し、植物への養分供給源として貢献
③生物性−土壌動物と土壌微生物により構成→落葉、落枝の分解 - 土壌と食料問題・環境問題
・世界中の食料の増産が人口の増加に追いついていない。
・土壌の荒廃が世界中で起きている。
「腐植質中ノ無機成分ノ植物に対スル価値」についての紹介がありました。
<午後>
「植物の栄養と土」「岩手県における環境に優しい土壌施肥管理技術」
【講師】岩手県農業研究センター 環境部 生産環境研究室 室長 島 輝夫 氏
「植物の栄養と土」
- 県内農耕地土壌の養分含量の推移
・昭和54年から調査している「土壌養分含量」の推移をみると、全般的に野菜では、リン酸、カリとも土壌堆積量がかなり多く、過剰堆積している可能性がある。 - 物の生育と施肥管理
・作物それぞれの吸収パターンが異なり、生育特性に合わせた施肥管理が必要。
・肥料、土壌改良資材には多くの種類があるので、その特性を理解した上で使いこなすことが必要。
[環境保全型農業への取組]
肥料が多すぎると農業経営や環境へのダメージの問題があるので、次のような環境にやさしい土づくり、施肥技術を行っている。
- 緩効性肥料の施用
・化学合成緩効性肥料(CDU、IBなど水に溶けにくく、微生物分解されにくい)
・硝酸化成抑制剤入肥料(ASUなど、微生物活性を抑え硝酸化成を抑制)
・被覆肥料(LPなど、被覆材を使い成分の溶出をコントロール) - 局所施肥
・畝内施肥、畝内部分施肥→施用量の減(専用のみ機械が必要)
・点滴かん水施肥技術→塩類集積の回避、かん水・施肥の自動化(水かけ当番) - 有機質資材利用による土づくりと化学肥料代替
・有機肥料・たい肥の効果→物理性、化学性、生物性の改善→増収、品質向上、安定生産
・有機質肥料や堆肥の特徴を把握しておくこと。→多投は、リン酸、カリ過剰の一因にも - 施肥基準、減肥基準の遵守による適正施肥
・補給型施肥基準(県)−土壌から持ち出された肥料成分量を肥料で補給するという考え方→土壌診断による施肥設計が必須
【講師】
- 岩手大学農学部教授 佐藤 和憲 氏 <午前・午後>
- 農事組合法人おくたま農産 代表理事組合長 佐藤 正男 氏 <午後>
- キートスファーム株式会社 代表取締役 南幅 清功 氏 <午後>
【概要】
今回はIAFSの目玉と言っても過言ではない「戦略計画」についての講義でした。
午前は戦略計画策定に向けたスケジュール、具体的に経営戦略を作る前には、しっかり現状把握をしておくことが大切です。より良い「戦略計画」を立てるためにも、今から準備を進めていきましょう!
<午前>
- 「戦略計画策定に向けたスケジュールと準備」
- ・夏までに準備しておきたい事項
- → 自家経営の現況把握
- → 社会・経済の動きの自分なりの整理
- → 主幹部門・作物の動向の整理
- → 地域農業の動向(特に土地利用型経営の人)
- 「農業経営と経営者の役割」
- ・経営戦略とは、経営理念・目標を達成するために経営を取り巻く環境に考慮しながら、自らの資源を利用して、経営活動するための長期的な計画。
<午後>
- 「実際の法人経営の事例発表」「総合討論」
- ・計画を立てる際には、社会情勢を踏まえた「シミュレーション」を行うことが大切。
- ・スタート時の計画が大事だが、背伸びしないで実現できる計画を立てることが重要。