Q&A

Q なんで今どき大腸菌を使って研究しているのですか?


A 分子生物学では大腸菌はモデル生物としてさかんに研究されてきていて、大腸菌を使った研究論文数はヒトを対象とした研究論文に次ぐ多さです。ノーベル賞学者・ジャック モノー先生は「大腸菌にあてはまることは、ゾウにもあてはまる!」とおっしゃったそうです。実際、遺伝暗号の解明やDNAの複製機構など、全生物で普遍的に見られる生命現象は、大腸菌を使って明らかにされてきました。タンパク質膜輸送の世界でも、大腸菌で得られた普遍的な知見が数多くあります。大腸菌は多くの遺伝学的、生化学的知見があり、増殖速度も速いため、精密で定量的な研究が可能です。我々は大腸菌を材料に用いて、すべての生物に還元できる生命現象の分子機構を明らかにすることを目指しています。実際、我々が大腸菌を使って見つけたMPIaseは、動物や植物にも存在することがわかってきました。

Q タンパク質膜輸送の分子機構がわかればどんな応用ができますか?


A 細胞にとって膜タンパク質はとても大事です。物質の輸送や情報のやり取りなど、数え上げるときりがありません。しかし、膜タンパク質は、当然のことながら水には溶けません。そのため、膜タンパク質を精製してその機能を解析しようと思うととても大変です。もし、膜挿入機構が明らかになって、試験管内で膜挿入反応を再現できるようになれば、理論的にどんな膜タンパク質でも容易に機能を解析することができます。最近ではゲノムプロジェクトなどで多くのDNA配列が明らかになっており、ヒトの細胞ですらどんなタンパク質が合成され得るのかわかっています。その中の多くが膜タンパク質で、しかも機能がわからないものです。こうした膜タンパク質は、新しい薬の標的として注目されているものの、実際に薬のスクリーニングを行うのはとても煩雑です。そこで、「膜タンパク質試験管内合成・膜挿入システム」を開発すれば、こうしたスクリーニングは非常に簡単になります。

タンパク質膜輸送の分子機構は、その基本的な部分ですべての生物で保存されています。実際、動物にも植物にもMPIaseに似た機能をもつ物質(MPIaseホモログ)が存在することがわかってきました。しかも、動物細胞のミトコンドリアにもMPIaseホモログが存在し、一連のミトコンドリアタンパク質の局在に関わっていることもわかってきました。このMPIaseホモログの研究を進めることにより老化のメカニズムを明らかにすることも可能になります。

タンパク質膜輸送は低温下で進行しづらくなることがわかっています。膜脂質は温度が低下するにつれて生体膜内での流動性が低下するためです。冷たいバターをパンに塗るのが大変なのに似ています。大腸菌では培養温度を低下させるとMPIaseの発現量が大幅に増加することがわかりました。つまり、MPIase量が増えると低温下でもタンパク質膜輸送が問題なく進められるということです。植物のMPIaseホモログの発現量を増やしたり、機能改変を行うと、低温にも耐えられる作物を開発できます。

どういう応用をするにしても、基本的な分子機構を解明することが最初のステップになります。


Q タンパク質の膜輸送だなんてなんだか難しそうだけど?


A 暗中模索の段階ではたしかに難しいことが多いですが、いろいろわかってしまうととても簡単です。例えば、ある膜タンパク質が膜に挿入されるときには、「ただ膜がそこにあればよい」と考えられてきました。つまり、膜タンパク質と膜脂質の疎水的相互作用によって膜タンパク質は「自発的に膜挿入」すると考えられてきたわけです。しかし、これでは自発的に膜挿入するものとそうでないものをどうやって区別するのか全く理解できません。我々は、生体膜にはジアシルグリセロールがあってこれが無秩序な自発的膜挿入を抑える作用があること、その結果どんな膜タンパク質も自発的には膜挿入しないことを発見しました。その上で、どんな膜タンパク質の膜挿入にも働く因子MPIaseを発見することができました。今では、MPIaseの作用を考えるとどんな膜挿入も分子レベルで理解することができます。こうしたことを明らかにしていくのが研究の醍醐味です。


Q 卒論や大学院で研究室配属されると、何でも好きな研究をさせてもらえるのですか?


A 私が責任を取れる範囲で、納得のいく研究をしてもらいたいと思っています。


Q 卒論でも学会発表や論文発表させてもらえますか?



A 学会発表や論文発表は積極的に行ってもらっています。そのために、最大限のサポートをしています