寒冷バイオシステム研究センター | ||||||||||||||
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>年報 1999 (Vol.2)>VI | [ 目次 | 巻頭言 | II | III | IV | V | VI | VII | VIII | IX ] |
◇畠山 均(はたけやま ひとし)
<略歴>
1951年生まれ。1974年岩手大学農学部卒業、1974年岩手県職員(盛岡農業改良普及所)。現在、岩手県農業研究センター農産部水稲育種研究室長、岩手大学農学部附属寒冷
バイオシステム研究センター客員教授(1999年4月より)。一貫して水稲の育種を担当し、オリジナル水稲品種「かけはし」の開発等を行った。1995年には「水稲品種『か
けはし』の育成と石垣島における種子の緊急増殖」で全国農業関係試験場長会研究奨励賞を受賞した。
<1999年・研究教育活動>
岩手大学に10回訪れ、CRCシンポジウムでの講演、農学研究科修士課程の講義「分子生物学特論」(江尻担当)の分担、寒冷バイオシステム研究センターの大学院生、学
部学生の研究指導を行った。CRCシンポジウムでは「耐冷性イネ育種研究の現状と展望」について講演が行われた。講義では、「かけはし」を開発した経過等について述べ
られた。学生の指導では、耐寒冷性イネの開発等にあたっている研究者と、直接問題点等について議論する機会が得られ有益であった。
<略歴>
1946年生まれ。1970年東北大学理学部卒業。1977年東北大学農学研究科博士課程修了。1978年北興化学(株)入社、1992年(財)岩手生物工学研究センター総括研究員。現
在、同遺伝子工学第2研究部長(安全性評価研究部長兼任)、岩手大学農学部附属寒冷バイオシステム研究センター客員教授(1999年4月より)。バイオテクノロジーによ
る果樹および花卉類の優良形質の育種。遺伝子組換え作物の安全性評価等、多数のプロジェクトのリーダーとして活躍している。
<1999年・研究教育活動>
岩手大学に10回訪れ、CRCシンポジウムでの講演、農学研究科修士課程の講義「分子生物学特論」(江尻担当)の分担、寒冷バイオシステム研究センターの大学院生、学
部学生の研究指導を行った。CRCシンポジウムでは「リンゴの遺伝子組換えに関する研究の現状」等についての講演が行われた。リンゴへの遺伝子導入は同氏らの研究が他
をリードしている。講義では、主としてリンドウやスターチスの花色の改変等について述べられた。学生の指導では、大学で手薄な遺伝子操作の応用分野を分担した。
◇吉田 静夫(よしだ しずお)
<略歴>
1935年、北海道生まれ。1960年、北海道大学大学院農学研究科修了、北海道大学低温科学研究所助手、助教授、教授を歴任。その間、1980-81年、カナダ・サスカチュワン
大学に客員研究員として滞在。1998年3月、定年退官。現在、北海道大学名誉教授、岩手大学農学部附属寒冷バイオシステム研究センター客員教授(1999年4月より)。植物
の低温環境下での生理応答機構を一貫して研究。植物細胞から純度の高い細胞膜を分離する方法を開発し、植物の低温馴化過程での細胞膜の関わりを生化学的・分子生物学
的に解明する突破口を開いた。さらに、冷温傷害機構に関しても、蛍光レシオ解析法等最先端の手法を用いて活発な研究活動を展開した。
<1999年・研究教育活動>
岩手大学に3回訪れ(残り1回は2000年3月)、特別講義、CRCセミナー・CRCシンポジウム講演、及び大学院生への研究指導を行った。特別講義は、農学研究科修士課
程向け講義「植物低温生理学」(上村担当)の中で第1回CRCセミナーをかねて行われた。植物の低温傷害の概略を講義し、北海道大学低温科学研究所時代に行われた研
究結果を交えて平易に話をされた。CRCシンポジウムでは、低温適応の中でも冷温領域(0℃以上)で起こる液胞膜に関連した傷害発生機構の詳細について講演し、現在
の世界的な状況を踏まえて解説された。さらに、生体機能開発研究分野に所属する大学院生のテーマである低温馴化過程における適合溶質含量の変動を測定するための条件
検討を指導している。いずれも、本センターの研究・教育活動に大きな利点をもたらした。2000年度も引き続き客員教授として活動を継続する予定であり、さらなる有益な
交流が行われる。
<略歴>
1975年、北海道大学理学部生物学科植物学専攻卒業/1982年、北海道大学大学院理学研究科博士課程植物学専攻修了(理学博士)後Max-Planck-Institut fur Moleculare
Genetik(西ベルリン市)研究員/1985年、日本学術振興会奨励研究員/1987年、ホクレン農業協同組合連合会M北海道グリーンバイオ研究所 主任研究員/1999年、ホク
レン農業協同組合連合会M北海道グリーンバイオ研究所遺伝子研究部長、現在に至る。
<趣味>
ガーデニング。今は庭も1m以上の雪におおわれていますが(2000年3月現在)、あとしばらくでクロッカス、ムスカリそしてスズランなどの花が現れてくることを楽しみ
にしています。
<研究紹介>
私はこれまで、北大において、細菌の低温環境への適応機構、Max-Planck-Institut fur Moleculare Genetik においては、高度好塩菌(古細菌)のタンパク質合成系、そ
して北海道グリーンバイオ研究所においては、植物、主にイネの低温環境への適応機構について研究を行ってきました。以下、現在研究を進めている北海道グリーンバイオ
研究所での仕事を紹介したいと思います。
イネには多くの品種が存在しますが、その中には低温に強いものや、弱いものがあります。その違いの原因を生理、生化学的に研究し、イネの低温下での発芽、伸張能や
低温傷害に対する耐性において、活性酸素の除去に関与する酵素の中で、特にカタラーゼ(CAT)とアスコルビン酸ペルオキシターゼ(APx)が重要な働きをしている事を明
らかにしました。その成果を踏まえて、遺伝子工学的手法を用いて、カタラーゼ活性を増加させ、低温傷害に対する耐性をイネに付与することを試みました。イネに導入す
る遺伝子は、低温耐性がイネより著しく強いコムギのカタラーゼ遺伝子を、コムギ幼苗のcDNAライブラリーよりクローニングして用いました。当研究所で確立したイネのエ
レクトロポーレーションによる遺伝子導入系を用いて、世界で初めてコムギカタラーゼcDNAをイネに導入、発現させる事に成功しました。得られた形質転換イネ56個体のうち、
12個体の形質転換イネにおいてコムギカラターゼが発現していることが確認されました。そして、形質転換イネのカタラーゼ活性(25℃)はコントロール(非形質転換イネ)
の活性より4〜5倍も上昇していること、また低温下(5℃)でのカタラーゼ活性は、コントロールよりも1.5倍も高い事が明らかとなりました。一方、コムギカタラーゼは形
質転換イネの葉以外に、根、葯、種子胚、種子胚乳においても発現していました。このような形質を有する形質転換イネは、コントロールのイネが低温(5℃)に10日間以
上置くことにより、著しい傷害を被り枯死するのに対して、低温傷害を受けることが少なく高い耐性を示すことが明らかとなりました。これらのことから、遺伝子工学的手
法によってカタラーゼ遺伝子を発現させて、カタラーゼ活性を増加させる事により、イネに低温傷害耐性を付与できることが確認されました。
2000年4月からは、岩手大学農学部寒冷バイオシステム研究センターの上村先生らと、コムギカタラーゼが発現している形質転換イネを用いて、低温下における過酸化水
素などの活性酸素による傷害発生メカニズム、それら低温傷害から植物を防御するためのカタラーゼの働きを分子レベルで解明することを目標に、共同で研究を進める事を
計画しております。
その他、北海道において毎年大きな問題となっているコムギの穂発芽発生のメカニズムや大粒菌核菌による雪腐病に関する生理生化学的研究を進めております。