寒冷バイオシステム研究センター | ||||||||||||||
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>年報 2002 (Vol.5)>III | [ 目次 | II | III | IV | V | VI | VII | VIII ] |
(1)染色体遺伝子の複製と転写を統御するメカニズム
(2)リンドウ越冬芽の形成、寒冷耐性、休眠の機構
(3)リンドウの生理活性物質の検索、作用機構
(2)リンドウ切り花の生産は岩手県が全国一である。主な切り花品種であるエゾリンドウ(Gentiana triflora)はF1品種として生産されているが、親株は自殖弱
勢が強く、自殖を重ねると形質が弱まったり変化したりする。このため、親株の効率的な維持、増殖法の確立のために、越冬芽形成能力の向上が緊急の育種目標となっている。
我々の研究分野は、岩手県安代町花き開発センターと共同でこの問題に取り組んでいる。
本年度は越冬芽の形成、維持、休眠、寒冷耐性に関わる遺伝子を同定するために、種々の組織のタンパク質を2次元電気泳動で網羅的に解析している。現在までに、越冬
芽で特異的に発現するタンパク質および他に比べ越冬芽で濃度の高いタンパク質を13種類同定した。それらの部分アミノ酸配列を決定した結果、興味あることに、それら
の中には国内外の他の研究グループが通常低温などのストレスで誘導されるタンパク質として同定したものが7種類存在した。この結果は、通常のストレス誘導とは異なっ
たストレス誘導性タンパク質の発現制御系がリンドウ越冬芽に存在する可能性を強く示唆した。この機構が寒冷耐性や休眠とも連携している可能性がある。我々はこの点に
注目し、抗体を用いたタンパク質発現の詳細な解析を急いでいる。
(a) 発表論文
Saitoh, Y., Miyagi, S., Ariga, H., Tsutsumi, K. (2002)
Functional domains involved in the interaction between Orc1 and transcriptional repressor AlF-C that bind to an origin/promotor of the rat aldlase B gene.
Nucleic Acids Res. 30: 5205-5212. [Summary]
(b) 学会発表
下平義隆,斎藤靖史,堤 賢一 (2002)
ラットDNA複製開始領域・転写プロモーターに作用する一本鎖DNA結合因子.
日本生化学会東北支部シンポジウム・第68回例会
斎藤靖史、牛尾健一、堤 賢一 (2002)
ラットDNA複製開始領域に結合する転写抑制因子AlF-Cの機能ドメイン
第3回岩手ゲノムサイエンス研究会
松川和重,日影孝志,斎藤靖史,堤 賢一 (2002)
リンドウ抽出物中の細胞増殖抑制因子.
2002年度(平成14年度)日本農芸化学会大会, 大会講演要旨集:41.
斎藤靖史、牛尾健一、有賀寛芳、堤 賢一 (2003)
ラット複製開始領域結合タンパク質AlF-C結合に関わるOrc1の機能ドメイン解析.
第20回染色体ワークショップ, 講演要旨集:40.
(c) 講演等
(d) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
(e) 特許
堤 賢一、斎藤靖史、馬場憲三、黒岩保幸(2002)
哺乳類DNAの複製阻害方法およびその物質(特願 2002-324353)
本研究分野では、寒冷刺激が細胞や個体に生じさせる分子シグナルの伝達経路、その応答や記憶の機構、また、寒冷地に棲息する生物に特有の寒冷耐性機構を解明するこ とを目的とし、本年度は以下の研究課題を中心に研究を展開した。
(1)翻訳制御系に対する寒冷ストレスの影響
(1)翻訳制御系に対する寒冷ストレスの影響
タンパク質生合成とその制御機構を解明することは、バイオサイエンスおよびバイオテクノロジーにおける最も重要な基盤である。農業生産においても、タンパク質が、
何時、何処で、どのくらい作られるかを知り、その過程を制御するシステムを解明し、生物生産の量的・質的改善に応用することが中心的課題となる。特に、"やませ"の常
襲地帯である岩手県においては、翻訳制御系に対する寒冷ストレス影響を解析する必要がある。
我々は、真核生物のペプチド鎖伸長因子1(EF-1)が4種類の異なるサブユニット(α、β、β'、γ)より構成され、αサブユニットはアミノアシル-tRNAをリボソーム
に結合させる因子であり、EF-1ββ'γは結合反応により リボソームより遊離した不活性型のEF-1α・GDPをGTP存在下に活性型のEF-1α・GTPに変換する因子であることを
明らかにするとともに、長い間機能が不明であった EF-1γがglutathione S-transferase(GST)活性を保有することを明らかにしてきた。GSTは寒冷ストレスを始め、多様な
ストレスの防御等に関連する多機能酵素の一つであり、EF-1γの機能の解明が待たれる。イネ培養細胞系での本年度の解析結果では、過酸化水素による酸化ストレス、低温
ストレス等でGSTの合成が誘導されることが観察されたが、EF-1γの合成は誘導されなかった。これらのことから、GSTとEF-1γが保有するGSTは異なる機能を有すると推定した。
(3)オオムギの春化誘導機構
"春化"は植物が冬場の低温に曝され、日長が延びてはじめて花芽が形成される現象で、作物の約半数で春化がみられる。二酸化炭素の増加等による気温の上昇は秋蒔きの
麦類等に大打撃を与えるとも言われており、春化機構を解明し、春化を自在に制御することは、グローバルな課題である。本研究では、春化への関与が期待される複数の新
しい遺伝子を単離し、現在、春化との因果関係を明らかにするための解析を行っている。春化機構の解明は、栽培作物の生産地域拡大に繋がるのみでなく、ダイコン等のと
う立ちの予防、岩手特産ナバナの生産性の向上、等にも繋がり、寒冷地農業に多くの利益をもたらすと期待される。また、本研究分野では寒冷耐性の高いオオムギ品種を用
いて、耐寒冷性遺伝子の同定を試みている。現在、低温環境下で特異的に転写される複数の遺伝子を同定しており、これらの中から寒冷耐性の引き金となる遺伝子を見出し、
寒冷耐性を有するイネ品種等を開発する基盤を構築する。また、本研究の過程で、オオムギ胚盤等で特異的に発現し、糖の流転に関与すると推定される遺伝子を見いだし、
その細胞内局在性、発現時期、発現誘導等に関する情報を得た。
江尻愼一郎 (2002)
タンパク質生合成研究の最近の進歩とその応用.
TOBIN (Tohokubio Insustry Networks) 20: 2-5.
木藤新一郎,佐々木直子,保田 浩,山下哲郎,小岩弘之,江尻愼一郎 (2002)
発芽時のオオムギ胚盤に存在する23kDaタンパク質(P23k)の機能.
第3回 岩手ゲノムサイエンス研究会
木藤新一郎 (2002)
発芽時のオオムギ胚盤で大量に発現するタンパク質(P23k)の機能
第8回穂発芽ワークショップ
(c) 講演等
木藤新一郎(2003)
ムギ類特異的タンパク質(P23k)の機能 -糖転流との関係-
平成15年度東北6県生物工学推進部会および研究会
Kato, K., Kidou, S., Miura, H. and Sagawa, S. (2002)
Molecular cloning of the wheat CK2α gene and detection of its linkage with Vrn-A1 on chromosome 5A.
Theor. Appl. Genet. 104: 1071-1077. [Summary]
本研究分野は、植物の低温適応のメカニズムを総合的に解明することを目的としている。現在、外来遺伝子を導入して低温などの環境ストレスに耐性を持つ植物を作成する ことが試みられているが、その試みが実用化されるためには、導入対象となる遺伝子がどのようなメカニズムでストレス耐性を増大させるのかという機能評価を行う必要が ある。その基礎データを得るため、本研究分野では、植物の低温適応と関連して、上記のテーマの下に研究を行っている。以下に、平成14年に得られた主な成果を記す。
(1)植物の低温馴化過程の解析
(2)植物の冷温障害機構の解析
冷温障害発生の原因の一つとして提案されている活性酸素とその発生回避を通じて冷温傷害発生が押さえられる機構を解析するために、北海道グリーンバイオ研究所(本
センター客員教授・猿山 晴夫氏との共同研究)で作成されたコムギカタラーゼ遺伝子を導入した形質転換イネを用いた研究を続けた。その結果、形質転換体では、低温処
理、及び、低温処理後の回復過程の両方で、1) 過酸化水素などの活性酸素発生が押さえられていること、2) 形質転換体では膜過酸化物の生成量が少なく、それに付随す
ると考えられる膜傷害発生が押さえられていること、3) カタラーゼ活性は可溶性画分に殆どが存在すること、などを見出した(小野寺ら)。さらに、最近、低温感受性植
物にも低温誘導転写因子CBFが存在することが明らかになり、なぜCBFが存在するにも関わらず低温耐性がないのか、あるいは、何か因子を付加することによって低温耐性を
付与することが可能なのか、といった点に興味が持たれるようになった。そこで、本研究室では、トマトを材料に独)農業技術研究機構東北農業研究センター(野菜育種研
究室・由比 進 室長)と共同研究を開始した。
(4)ザゼンソウの発熱制御システムの解析
早春に花を咲かせるザゼンソウは氷点下を含む外気温の変動にもかかわらず、その発熱部位である肉穂花序の温度をほぼ20℃内外に維持する能力を有している。本研究にお
いては、肉穂花序における熱産生の素反応の関わる因子の解析等を通じて、植物界では例外的な存在である発熱植物の温度制御システムに関わるメカニズムを明らかにする
ことを目的としている。これまで、哺乳動物における非ふるえ熱産生に密接に関わるとされる脱共役タンパク質(UCP)に属する2種類のザゼンソウ遺伝子(SfUCPa &
SfUCPb)の同定を行ってきたが、今年は、従来から植物の主たる発熱因子とされてきたシアン耐性呼吸酵素(AOX)をコードする遺伝子(SfAOX)の同定とその発
現解析等を行った。その結果、肉穂花序における熱産生部位と推定される小花において、SfAOXとSfUCPbの転写産物が共発現していることなど明らかとなり、
ザゼンソウにおいては、従来想定されていたAOX活性に基づく植物の発熱機構とは異なる熱産生システムが存在する可能性が示された。
上村松生、中川原千早、河村幸男、吉田静夫、江藤剛治、竹原幸生 (2002)
細胞内凍結の低温馴化過程における変動と高速ビデオカメラを用いた観察.
低温生物工学会誌48巻、(印刷中) [Summary]
(b) 学会発表
Kawamura, M. and M. Uemura (2002)
Mass spectroscopic identification of plasma membrane proteins in Arabidopsis thaliana that change during 1 week of cold acclimation.
Plant Biology 2002, Denver, Co, USA. Abstract #11002(ミニシンポシウム招待講演).
Ito, K. and R. Seymour (2002)
Isolation of a gene encoding uncoupling protein from the thermogenic inflorescence of the dead horse arum Helicodiceros muscivorus.
Plant Biology 2002, Denver, Co, USA. Abstract #652.
Tanaka, D., T. Niino, K. Isuzugawa, T. Hikage and M. Uemura (2002)
Cryopreservation of in vitro-grown apical shoot tips of Gentiana by vitrification-based protocols.
39th Meeting of the Society for Cryobiology, Breckenridge, CO, USA. Cryobiology 45: 268.
河村幸男、上村松生 (2002)
低温馴化過程で変化するシロイヌナズナ細胞膜タンパク質の同定.
日本植物生理学会2002年度年会.要旨集 p. 208.
上村松生、中川原千早、河村幸男、吉田静夫、江藤剛治、竹原幸生 (2002)
細胞内凍結の低温馴化過程における変動と高速ビデオカメラを用いた観察.
第48回低温生物工学会.要旨集 p.34.
小野寺秀宜、相馬ちひろ、猿山晴夫、上村松生 (2002)
イネ葉の呼吸・光合成活性に対する低温とコムギカタラーゼ過剰発現の影響.
日本植物学会第66回大会.要旨集 p.122.
伊藤菊一 (2002)
赤外線カメラによるザゼンソウおよびヒトデカズラの発熱特性の解析.
日本農芸化学会2002年度(平成14年度)大会.要旨集 p.273.
伊藤菊一 (2002)
恒温植物の体温制御システム.−ザゼンソウの発熱応答システム−
第61回農業機械学会(平成14年度)年次大会.講演要旨集 p.1-2.(招待講演)
Ito, K., Y. Abe and R. Seymour (2002)
Ubiquitous expression of a gene encoding for uncoupling protein isolated from the thermogenic inflorescence of the dead horse arum Helicodiceros
muscivorus.
第25回日本分子生物学会年会.要旨集 p.176.
伊藤菊一 (2002)
発熱する植物.
第4回白馬ざぜんそう祭り.
伊藤菊一 (2002)
世界の発熱植物の探索:オーストラリアに自生する発熱植物の解析.
第4回CRCシンポジウム.
(d) 特許
伊藤菊一、伊藤孝徳 (2002)
温度制御装置、それを用いた植物体の体温測定装置、及び、植物体の体温変動測定方法.(特願2002−272061)
(e) 他の学内研究室および学外研究機関との共同研究(下線は当センター所属の教員、院生、学生)
Niino, T., D. Tanaka, S. Ichikawa, J. Takano, S. Ivette, K. Shirata and M. Uemura (2002)
Cryopreservation of in vitro grown apical shoot tips of strawberry by vitrification: technical key factors enhancing survival rate.
39th Meeting of the Society for Cryobiology, Breckenridge, CO, USA. Cryobiology 45: 267.
田中直樹、藤田弥佳、半田裕一、村山誠治、上村松生、河村幸男、三ツ井敏明、三上暁、戸澤譲、吉永哲栄、小松節子 (2002)
イネ細胞内小器官プロテオミクス:イネゲノム機能解明を目指して.
第25回日本分子生物学会年会.要旨集 p.74.
平成14年7月12日(金)、農学部1号館2階の大会議室にて第4回CRCシンポジウムを開催しました。この公開シンポジウムは"寒冷生物学"に関連する話題の提供とセンター の研究紹介を目的として毎年1回開催しています。今回のテーマは「多彩な環境への生物の適応」ということで、センター教員3名および外部の先生2名にそれぞれ行ってい る研究を中心に解説していただきました。 (講演要旨はhttp://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~icg-1/Symposium/Sympo-4/abst-4.html でも公開)。
−発表題名および発表者−
「世界の発熱植物の探索:オーストラリアに自生する発熱植物の解析」
伊藤 菊一(センター生体機能開発研究分野)
「リンドウの越冬芽で働くタンパク質の解析」
堤 賢一(センター細胞複製研究分野)
「フィールドからのイネ遺伝子資源の探索」
佐藤 雅志(東北大大学院生命科学研究科)
(CRCセミナー)
第20回 2月14日 遺伝的組換え開始の分子機構
第21回 2月22日 私の遺伝的組換えの分子機構の解析について
−RecA−Rad51−Rad52−Mre11−
小川智子 岩手看護短期大学副学長(国立遺伝学研究所名誉教授、前副所長)
第23回 5月27日 自然科学とコンピュータ・シュミレーション
伊藤孝徳 生研機構
遺伝子導入によるリンゴ斑点落葉病抵抗性
加藤善明 生研機構
ペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)における低温馴化過程の分子・細胞生物学的研究
富永陽子 生研機構
第25回 11月15日 遺伝子組み換え食品 ―これまで、現状、これから―
川口啓明 科学アナリスト