イベント

2013年のイベント情報

第6回セミナー

組織、細胞のタンパク質のアイソフォーム、バリアント、翻訳後修飾、膜タンパク質解析における最新の前処理技術から質量分析装置による同定、定量解析まで
2013年1月9日 16:30-18:00
農学部2番教室
質量分析装置を用いたプロテオミクス研究は基礎の生物学から臨床医学研究まで幅広く利用されている。LC/MS装置の前段に配備されたクロマトグラフィーは分離することによりその複雑性を少なくし且つナノ化することにより微量サンプルを濃縮し、検出器としての質量分析装置に送り込むことができる。質量分析装置の性能向上は微量に存在するタンパク質の同定や定量を可能にしたが、実際には血液(プラズマ)などのような多くのタンパク質が複合したサンプルを一度のLC/MSで解析して微量なタンパク質を同定、定量することはできない。それは質量分析装置のダイナミックレンジとサンプルのダイナミックレンジにはいまだに大きな差が存在するためである。またタンパク質のアイソフォームやバリアントは病態に対して重要な役割を持っていることが明らかになりその翻訳後修飾などの解析も重要になっている。それらを解析するにあたり、扱うサンプルにより前処理技術が異なり、その処理技術は研究戦略において重要な役割を演ずる。本講演ではタンパク質解析におけるさまざまな前処理技術から、処理されたサンプルに対する最新の質量分析による定性、定量技術を紹介する。
1. 各種前処理技術の実際から質量分析装置による超微量同定
エーエムアール株式会社・株式会社バイオシス・テクノロジーズ
取締役  板東泰彦
2. 質量分析装置を使ったタンパク質定量技術の実際
エーエムアール株式会社・株式会社バイオシス・テクノロジーズ
研究開発担当 福田哲也

第7回 セミナー

質量分析法を用いたタンパク質定量の基礎と腎臓病理学への応用
麻布大学 獣医学部 病理学研究室 講師 上家 潤一
2013年2月5日 16:30-17:30
会場 連合農学研究科棟 2階 遠隔講義室
参加申込不要
タンパク質の発現量、翻訳後修飾プロファイルはタンパク質の機能に直結する情報であり、その解析は生命科学分野における最重要課題の一つである。三連四重極型質量分析計のSelected Reaction Monitoring (SRM)モードを用いたタンパク質定量法は、生体試料中の微量なタンパク質の定量に有用であり、安定同位体標識タンパク質を内部標準とすることで、対象タンパク質をamol~fmol/assayレベルで定量することが可能である。我々は本手法を発展させ、翻訳後修飾の部位と修飾量を測定するAbsolute Quantitative Assay with reference protein (AQUA protein)を開発した。 我々は、AQUAを用いて腎障害モデルラットにおける蛋白尿関連分子の発現量と翻訳後修飾プロファイルの変動を解析している。蛋白尿は腎疾患の予後を決定する重要な因子であるが、病理発生機序の詳細は不明である。腎糸球体において、スリット膜と呼ばれる構造物が血中タンパク質の尿中への漏出を抑制しており、蛋白尿の病態を解明するためには、スリット膜構成タンパク質の変動解析が重要と考えられる。本セミナーでは質量分析計を用いたタンパク質定量法の基礎とAQUAの原理、腎臓病理学への応用を紹介したい。

第8回 セミナー

匂いセンサと嗅覚ディスプレイを用いた遠隔匂い再現システム
東京工業大学 電子物理工学専攻 准教授 中本 高道
2013年3月6日 15:00-16:30
会場 工学部 銀河ホール
参加申込不要
本講演では匂いセンサ、嗅覚ディスプレイの最新の研究を述べた後で、これらを用いた遠隔匂い再現システムを紹介する。さらに、匂いを複数の要素臭で近似する試みを述べる。

第9回 セミナー

生物間コミュニケーションに使われる化学感覚シグナル
東京大学 大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 生物化学研究室
東原 和成
2013年3月18日 15:30-16:30
会場 農学部 総合教育研究棟(生命系) 遠隔講義室
参加申込不要
 生態系は、多様かつ複雑な匂い物質で充満しているが、生物は、その多様な情報のなかから、仲間、敵、異性などの信号を正確にキャッチして識別する能力をもつ。Buck & Axelの嗅覚受容体の発見以来、匂い受容機能に関する研究は飛躍的に進み、培養細胞での発現も難しかった嗅覚受容体のアッセイ系も確立された[1]。しかし、現在までに、1000種類近くあるマウス嗅覚受容体のうち、20%ほどの受容体のリガンドしか見つかっていない。残りの多くの嗅覚受容体は何を認識しているのか。一方、リガンドスクリーニングに使う匂い物質は、合成香料や試薬会社が販売する揮発性物質であるが、実際にマウスが自然界で感じる匂い物質は、他個体から発するものや、自然生態系由来の匂いであり、それらは全く異なるものであることが予想される。そこで、我々は、マウスが自然界で感じる匂い物質を同定するために、クルードなサンプルから嗅覚受容体リガンドをスクリーニングすることができるアッセイ系を確立し、マウス個体から分泌され、嗅覚受容体で認識される物質を精製・構造決定する手法を開発した。本セミナーでは、その一例として、オスマウスの包皮腺から分泌される脂肪酸由来の炭素数14の不飽和アルコールを同定した研究を紹介する [2]。この物質は哺乳類で初めて見つかった物質であり、メスマウスを引き寄せる効果をもつということがわかった。本アプローチを用いて、嗅覚受容体のナチュラル匂いリガンド(フェロモンでもありうる)の同定が飛躍的に進み、現在汎用されている偏った合成香料リガンドレパートリーではなくて、生理的に意味のある「匂いと受容体の組合せマトリクス」ができることが期待される。

引用文献:
1. Touhara, K. and Vosshall, L.B. Annu. Rev. Physiol. 71, 307−332 (2009)
2. Yoshikawa, K., Nakagawa, H., Mori, N., Watanabe, H., and Touhara, K. (2013) Nature Chem. Biol. Published online: 13 January

特別シンポジウム(平成24年3月29日)

岩手大学 「におい」による生物間コミュニケーション研究の推進事業
日本木材学会 抽出成分利用研究会 共同開催

第1部(13:30-14:50)
「におい」による生物間コミュニケーション研究の推進事業 成果報告
・シカ忌避剤にライオンの排泄物を利用する研究
松原和衛、赤荻周悟、西千秋、出口善隆、小藤田久義(岩手大学農学部)
・ネコの縄張行動に重要なにおい分子の探索
宮崎雅雄(岩手大学農学部)
・新規蒸留分離法によるスギ材乾燥副産物からの有用成分の分離と精製
小藤田久義、辻村舞子(岩手大学農学部)
・SAFE (solvent assisted flavor evaporation ) 法を用いた生醤油の調理加熱による香気変動の解明
孟琦、熊丸陽奈、菅原悦子(岩手大学教育学部)
第2部(15:00-16:20)
日本木材学会 抽出成分利用研究会 企画講演
・樹木の香りによる空気質の改善
大平辰朗(森林総合研究所)
・嗅覚九州プロジェクトの紹介~医農理工文連携による「におい」の最先端総合研究~
清水邦義(九州大学農学研究院)
・サイプレス材香気成分の吸入が肥満因子の抑制及び交感神経活動に及ぼす効果
光永 徹(岐阜大学応用生物科学部)
第3部(16:20-17:10)
特別講演
・香り研究の現状と未来
谷田貝光克(東京大学名誉教授・香りの図書館館長)
会場 教育学部 北桐ホール
ポスターはこちらから閲覧できます。

第10回 セミナー

遺伝子で探る嗅覚の進化 〜環境に応じて変化するゲノム〜
東京大学 大学院 農学生命科学研究科
新村 芳人
2013年7月5日 16:30-18:00
会場 農学部 北講義棟1階 2番講義室
参加申込不要
 嗅覚は、食べるものと食べられないものを識別したり、交配相手を見つけ、捕食者から逃れたりするために不可欠で、生存に直接関わる重要な感覚である。環境中の多様な匂い物質は、鼻腔の嗅上皮で発現している嗅覚受容体(OR)によって検出される。OR遺伝子は哺乳類で最大の遺伝子ファミリーを形成しており、その数はヒトで約400個、マウスやラットでは約1,000個におよぶ。
 様々な生物種の全ゲノム配列を用いた網羅的解析の結果、OR遺伝子の数は種によって大きく異なることが明らかになった。例えば、視覚の発達した高等霊長類や、二次的に水中生活に適応したイルカのOR遺伝子数は、他の大部分の哺乳類よりも少ない。それぞれの生物種のもつOR遺伝子レパートリーは、その生物の生存環境に応じてダイナミックに変化してきたと考えられる。進化の過程における遺伝子の重複や欠失が極めて多いことは、OR遺伝子の特徴の一つである。
 OR遺伝子は、鳥類・爬虫類・両生類・魚類を含む全ての脊椎動物がもっている。魚類のもつOR遺伝子数は、哺乳類と比較してかなり少ないが、アミノ酸配列の多様性は哺乳類よりも大きい。このことは、陸上生活へ適応する過程で、揮発性の匂い分子と結合できるごく少数のOR遺伝子だけが生き残り、その後遺伝子数が爆発的に増加したことを物語っている。最も初期に分岐した脊索動物であるナメクジウオも脊椎動物型のOR遺伝子をもつことから、OR遺伝子の起源は脊索動物門の共通祖先にまで遡ることができる。
 本講演では、脊椎動物OR遺伝子ファミリーの進化に着目して、匂いという感覚の不思議に迫ってみたい。

参考:
『興奮する匂い、食欲をそそる匂い 〜遺伝子が解き明かす匂いの最前線〜』新村芳人、技術評論社
Wang Z. et al. (2013) The draft genomes of soft-shell turtle and green sea turtle yield insights into the development and evolution of the turtle-specific body plan. Nat Genet 45: 701-706.
Niimura Y. (2012) Olfactory receptor multigene family in vertebrates: from the viewpoint of evolutionary genomics. Current Genomics 13: 103-111.

第11回 セミナー

大容量ヘッドスペース/ガスクロマトグラフによる匂い成分の高感度分析
西川計測株式会社
古舘 肇
2013年7月30日 16:00-17:30
会場 農学部 総合教育研究棟(生命系) 遠隔講義室
参加申込不要
“レモンの匂い”、“バラの匂い”など人間が臭覚で感じる匂いは一般に多数の成分で構成されている。匂いによっては数百または数千もの異なる成分が複雑に組合わさってひとつの匂いを形成しているものもある。しかしたいていの成分が必ずしもすべての成分が匂いに寄与しているわけではなく、むしろごく少数の成分による影響が大きい。これら匂いの特徴となる成分を明らかにするためガスクロマトグラフ(GC)、GC-質量分析計(MS)およびさまざまな周辺機器が開発されている。とりわけ食品香気においては臭気閾値が非常に低い成分がその匂いに強く寄与している場合が多く、匂い成分の微量での検出が望まれる。通常GCやGC-MSで微量分析を行う場合、抽出や濃縮など何らかの前処理が必要とされる。一般に匂い成分分析の前処理として水蒸気蒸留、液液抽出、吸着管への捕集、ヘッドスペース法、パージ&トラップ法、SPME、SBSEなどがあげられる。なかでも人間が実際に感じる匂いに成分組成がもっとも近い手法にヘッドスペースサンプリングがあるが、従来この手法は導入できる量に制限があり高感度での分析が困難とされていた。今回紹介する大容量ヘッドスペース(Large Volume Static Headspace:LVSH)は、米国Entech Instruments社のEntech 7200A自動濃縮装置により大容量のヘッドスペースガスを低温濃縮し、なおかつクライオフォーカシングをかけることによりその全量をGCやGC-MSへ導入できるところが特徴である。さらに3ステージトラップ濃縮技術により今までは困難とされていた水や二酸化炭素を含むヘッドスペースガスであっても大量に導入することが可能となった。
濃縮装置は、従来比較的極性の低い揮発性有機化合物(Volatile OrganicCompounds:VOCs)の分析に活用されてきたが、近年Entech社が独自に開発したフューズドシリカによる不活性コーティング(SiloniteTM)技術と組合わせることにより硫黄化合物に代表されるようにより極性の高いVOCsへの応用が可能となった。ここではEntech7100A自動濃縮装置の原理と特徴、および大容量ヘッドスペースを用いた匂い成分分析への応用例を紹介する。