|
研究室・教員一覧
応用微生物学研究室当研究室では、日本酒を造る酵母の特徴を遺伝子レベルで解明し、新しい性質を持った酵母の育種に利用する研究を行っています。また、自然界から有用な微生物を発見し、食品加工、生体成分の分析あるいは環境にやさしい物質生産方法などに利用する研究を行っています。 教授:下飯 仁(しもい ひとし)研究内容日本酒を造る酵母(清酒酵母)の特徴を遺伝子レベルで解明し、新しい酵母の育種に応用する研究に取り組んでいます。 担当科目微生物学概論、産業微生物学、微生物生理機能学 メール:simoi(at)iwate-u.ac.jp 教員研究室の所在:4号館2階203号室 日本酒を造る酵母(清酒酵母)の特徴を遺伝子レベルで解明する 清酒酵母は、パン酵母や他の酒類製造用酵母と同様にSaccharomyces cerevisiae に分類される酵母ですが、高いアルコール生産能や優れた香味の生成など、他の酵母とは異なる特徴を持っています。私たちの研究グループは清酒酵母の特徴を遺伝子レベルで解明する研究に取り組んできました。
(1) 清酒酵母の高泡形成遺伝子に関する研究 清酒酵母は清酒もろみにおいて高泡を形成しますが、現在では生産効率の向上のため、優良酵母から分離された泡なし変異株が広く使用されています。私たちは、高泡形成の分子メカニズムを解明する目的で泡あり酵母から高泡形成に関与する遺伝子AWA1 をクローニングし、その構造を解析しました。その結果、清酒酵母の細胞表層にはAWA1 遺伝子の産物である新規細胞壁タンパク質が存在し、それが細胞表層を疎水性にするために高泡が形成されることを明らかにました。一方、泡なし酵母では、AWA1 遺伝子の変異のために酵母が泡に結合できなくなるので泡なしとなることがわかりました。
(2) 清酒酵母のゲノム解析 清酒酵母の遺伝子の特徴をより深く理解するために、産官学のグループから構成される清酒酵母ゲノム解析コンソーシアムを結成し、清酒酵母の全ゲノム解析を行いました。その結果、清酒酵母のゲノムは実験室酵母のゲノムと全体としてよく似ていましたが、両酵母間で異なる遺伝子や染色体の逆位構造を検出しました。本研究によって清酒酵母に多数の遺伝子変異が見いだされましたが、それらはその後の清酒酵母研究の基盤情報となっています。
(3) 清酒酵母の高い発酵力の原因 清酒酵母は清酒もろみにおいて他の酵母よりも高濃度のアルコールを生産しますが、その原因となる遺伝子は不明でした。以前は清酒酵母の高発酵力はアルコール耐性が高いためと考えられていましたが、実際に調べてみると清酒酵母のアルコール耐性は他の酵母より低いことがわかりました。ゲノム解析の結果を利用して、アルコール耐性に関与する遺伝子群を調べたところ、清酒酵母にはMSN4、PPT1、RIM15 などの遺伝子に変異があり、そのためにアルコール耐性は低いのですが、発酵力はかえって向上していることを明らかにしました。特にRIM15 の変異の効果は顕著で、実験室酵母のRIM15 を変異させると、アルコール感受性にはなるものの、アルコール発酵力は著しく向上しました。本研究によりアルコール耐性とアルコール発酵力は逆相関することが明らかとなり、アルコール耐性を低くすることでアルコール発酵力を向上させることができる場合もあることがわかりました。
今後も清酒酵母の特徴を支配している遺伝子とその働きを研究して、その成果を有用な清酒酵母の開発に応用していきたいと考えています。
|