犬バベシア症

犬バベシア症とは?

犬バベシア症は、バベシア原虫という小さな寄生虫によって引き起こされる、発熱、貧血、血小板減少症をおもな症状とした感染症です。日本には主に西日本にBabesia gibsoniという種が存在するのに加え、沖縄県にのみBabesia vogeli(Babesia canis vogeli)という種が確認されていました。バベシア原虫はマダニの吸血によって伝染するため、マダニ予防をしていない犬が草むらや林に入り、マダニの吸血を受けることで感染します。患者の発生地域の解析から、昔から犬バベシア症は暖かい地方の病気であり、東日本、北日本にはほとんどいないとされています。たまたま旅行で西日本に行ったことがある犬でたまに発症が見られる程度です。

ところが近年、東北地方の岩手県において西日本への旅行歴のない犬で犬バベシア症を発症した症例に3例遭遇しました。これらの患犬を不思議に思い、それらの犬に感染したバベシア原虫の遺伝子を調べたところ、上記のB.gibsoniB. vogeliとはことなり、北米でオオツノヒツジなどで感染の見られるBabesia odocoileiという種に非常によく似た遺伝子をもつ種が感染していることがわかりました。この種はこれより前に東京大学の猪熊壽教授が遺伝子だけを発見し、発表されていたので我々もこれを踏襲し、Babesia odocoilei-like(図)として公表しました(Yamasaki M., Nukada Y., et al., Parasitol Intern, 2021)。

これらの患犬の共通することは、いずれも別の病気によって脾臓という免疫(体の防御機構)にとって重要な臓器を摘出されていたことです。ひょっとすると免疫力が正常な犬よりも落ちていて、普段は感染や、感染したとしても発症しない犬が発症したのかもしれません。これらの犬たちは全頭ジミナゼン製剤により治療を受け、全頭でバベシア原虫の減少が確認されています。よって、このB.odocoilei-likeという原虫も通常の犬バベシア症の治療で効果があると思われます(一般的にはジミナゼン製剤やアトバコンなどで治療を行います)。ただ、残念ながら1頭は脾臓がないことも影響したのか、命を落としました。

岩手大学動物病院では、この知識と経験を生かし犬バベシア症の遺伝子検査を有料で提供しています。検査はPCRによるバベシア原虫の遺伝子の検出(感染の確認)と、塩基配列の解析による種の同定です。他の多くの機関にて、犬バベシア症の検査を取り扱っておりますので、西日本など多く発生が見られる地域であれば当院での検査は不要かもしれません。東日本、北日本などでの発症でB.gibsoniB.vogeliではないと思われる場合に種の同定を希望される場合にご利用ください。

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遺伝子検査について

犬バベシア症 遺伝子検査費用:8,250円

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お問い合わせ

岩手大学農学部共同獣医学科小動物病態診断学研究室・山ア真大
e-mail:masayama@iwate-u.ac.jp
※検査においては採血、血液の郵送などが必要なため、お問い合わせや検査依頼はかかりつけの獣医さんからいただけると助かります。

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犬バベシア症

病気について