岩手大学農学部は、平成19年度改組に向けて改革の基本方針と内容の検討を進めており、「中期目標・中期計画」を踏まえ、農学部を生命科学の深化とフィールド科学の推進拠点として充実することとしている。わが国における岩手大学農学部の個性を明確化するために、学部改組とともに附属施設を再編し、東北地方の地域特性を生かした研究を推進する拠点形成を行う必要がある。岩手大学の中期目標・中期計画において動物医科学に関する重点課題が設定されていることから、農学部将来構想のなかの附属施設再編の一環として、附属動物医学食品安全教育研究センターを設置する。 附属動物医学食品安全教育研究センターは、「食の安全」をはじめとする人類と動物の間に生じる様々な課題を解決するための、動物生命科学に関する基礎的ならびに応用的研究拠点としての機能を担うとともに、学問分野の枠組みにとらわれず学際的・横断的な研究・教育を展開することにより、全学ならびに学部教育に積極的に参加し、岩手大学における研究・教育の充実に貢献する。さらに、附属動物医学食料安全研究教育センターは、地域の各種機関との共同研究,地域密着型の研究に取り組み,成果の研修・普及と地域との連携強化を進めることにより社会へ成果を還元し、地域貢献を果たす。
東北地方は、過去・現在そして将来においても日本有数の畜産物生産基地であり、岩手大学農学部は、この恵まれたフィールドを背景として、人類と動物の間に生じる様々な課題に関する横断的な教育・研究を実践することができる唯一無二の存在である。
附属動物医学食品安全教育研究センターは、特に「食」を通じて人類と密接な関わりを有する家畜を対象とする教育・研究に重点的に取り組む。健康で高品位な家畜の生産と食の安全・安心に関する学際的・横断的科学を希求し、その成果を東北・岩手の地から世界に発信するための拠点として機能することを目的とする。本センターの重要な使命は、以下の三点に要約される。
1. 動物性食品に関する学際的・横断的な研究拠点形成
2. 動物・食品分野横断的な動物性食品に関する卒後教育・学部教育の提供
3. 地域密着型・問題解決型の動物性食品に関する研究推進
従来の畜産学教育および獣医学教育では、動物性蛋白の生産、疾病予防と治療、そして食品衛生はそれぞれが縦割りに専門化して研究・教育を進めてきた歴史があり、これらを分野横断的に結びつける研究教育体系が存在しなかった。近年、食の安全性においてリスク(疾病の発生や被害が起こる可能性)という言葉が頻繁に用いられるようになり、リスクを総合的に評価、管理するとともに情報を交換・共有するという「リスクアナリシス」の概念が国際標準となっている。また、「リスクアナリシス」のもとでの「リスク管理」の具体的方策として、HACCP (hazard analysis critical control point)手法が国際標準となりつつある。これらの概念・手法に基づいて「食の安全・安心」を実現するためには、各分野が横断的に連携する研究体制と、その成果を基とする一貫した教育プログラムを確立する必要がある。 本センターは、国際標準に基づき「生産現場から食卓まで」の分野横断的な研究を推進し、その普及を志向する、全国的に見ても類を見ない研究教育拠点となる。最新の科学に基づき、学際的・横断的に健康で高品位な家畜を生産し、食の安全・安心を提供するための研究を推進し、その成果を基盤として学部教育、大学院教育における横断的教育プログラムを実践することにより、食の生産現場から消費現場までの流れのなかで「食の安全・安心」を守ることができる高度職業人を育成することが可能となる。